「骨抜き」にされた
健康増進法改正案

 結局、2017年3月に議論された健康増進法改正案は、与党内の意見をまとめられなかったことを理由に廃案となり、国会に提出されることはなかった。筆者らが知り合いの新聞記者から聞いた情報では、調整の最終日には、自民党本部の部屋から関係者の怒号が響き渡るほどの激しい言い争いもあったという。

 そして、法案成立のために力を尽くした塩崎氏の後任となったのが、今の加藤勝信厚生労働大臣である。加藤氏は財務省出身者ということもあり、関係者の間では今後、受動喫煙に関する規制が国民の健康に配慮したものとなる可能性はほとんどなくなったと見る向きが広がっていった。

 実際に、2018年2月ごろに厚生労働省から出された修正案は、「飲食店など多くの人が使う施設は原則禁煙にするが、客席面積が100平方メートル以下の飲食店は喫煙を認める」という内容で、これでは55%程度の飲食店は規制の対象外となる。

 加熱式たばこについては、飲食等の可能な喫煙室内で喫煙可となっている。未成年は喫煙場所には立ち入らせてはならないとあるものの、その「喫煙場所」の定義が明らかでなく、例えば植木やついたてなどで喫煙場所と非喫煙場所を仕切っているような飲食店ではどうなるのかも明確ではない。

 これが発表された直後から、この修正案は「骨抜き」との批判が強く、塩崎元大臣はテレビ東京のワールドビジネスサテライトに出演し、「これは受動喫煙防止法ではなく、受動喫煙促進法だ」と発言し、一歩どころか二歩も三歩も後退した修正案を厳しく批判した。

羽生結弦の盛りあがりの影で
骨抜き修正案がしずかに了承

 この時、塩崎氏は、閣議決定において「党議拘束をはずすべきだ」と提案した。この発言には野党からも、例えば希望の党の細野豪志衆議院議員が、英国では2006年の受動喫煙防止法の採決において自由投票が行われていることを指摘した。安全保障などの基本政策の範疇に入らず、個人の価値観にかかわるこうした問題こそ、自由投票に付すべきだと発言した。

 しかし、この修正案は、国民が平昌オリンピックで羽生結弦選手の演技に夢中になっていた2月22日、ほとんど報道されることもないままに自民党の厚生労働部会で了承され、3月9日に閣議決定、国会での成立を目指すこととなったのである。

 これには、当然自民党内からは強い反発もあった。塩崎元大臣に加え、自民党受動喫煙防止議員連盟会長の山東昭子議員、超党派の「東京オリンピック・パラリンピックに向けて受動喫煙防止法を実現する議員連盟」会長の尾辻秀久議員、先の三原じゅん子議員なども懸念を示したが、報道によると、最終的には「ベストでないのは承知の上だが、そろそろ結論を」「いやいやだが容認」という声も出、部会長一任での了承となった。

 分煙を目指してたばこ議連にも加入していた自民党の小野田紀美議員も、たばこ議連には分煙を目指す意思がないと判断したとして、「たばこ議連を脱退」した旨、ツイッターで発言している。報道によると、若手、女性議員からは総じて、この修正案では十分な規制となっていないという点についての批判があったようだ。健康増進法改正案の修正案は、与党である自民党を二分するような議論となっていたのである。