加熱式たばこの安全性は
まだ確認できていない
第三に、近年急速に増加しているIQOSなどの加熱式たばこの問題がある。現在の研究では紙巻たばこと比較すれば有害物質が少ないという研究は存在しているが、加熱式たばこの呼気中にも有害物質が含まれているという研究が複数あり、健康に悪影響がある可能性が高い。
米国食品医薬局(FDA)は、加熱式たばこの安全性が確認できていないことを理由に、米国内での販売を認めていない。世界保健機関(WHO)は紙巻たばこと同様に規制することを推奨している。
以上のようなことを考え合わせれば、筆者らは飲食店については、紙巻たばこ、加熱式たばこにかかわらず、屋内全面禁煙とするのが望ましく、面積による例外は設けないほうがよいと考えている。そもそも、副流煙を避けることのできない閉鎖空間こそ受動喫煙被害は大きくなるので、面積が小さい飲食店を例外にすれば、当該店舗における受動喫煙被害は大きくなってしまう。
しかも、面積で例外を設けずにすべての店舗を禁煙にすれば売上に影響を与えなくても、一部に店舗を喫煙可にすれば売上に差が生じる不公平を生み出す。飲食店を守るといいながら、飲食店にとって不利をもたらす規制となりかねない。
「禁煙」「喫煙」「分煙」表示だけでは
社会的弱者が割を食う
なぜ、「禁煙」か「喫煙」か「分煙」かの表示を義務化するだけでは不十分なのかというと、これでは飲食店の従業員、保護者に連れてこられる未成年の子ども、職場などの付き合いで連れてこられる若者など、自分で飲食店を選択することができない弱い立場の人を守れないからだ。
受動喫煙規制は、喫煙者の権利を侵害することや、喫煙者を減らすことを目的としているのではなく、望まない受動喫煙を防止することが目的である。自動車を運転する人を減らすのではなく、事故に巻き込まれる人を減らすために飲酒運転を厳しく取り締まるのと同じ理屈である。
しかし、喫煙者がたばこを楽しむことができるよう、屋外の喫煙所の整備は必要だと筆者らは考えている。日本は屋内よりも屋外の喫煙に関する規制が先に始まり、海外と比較しても屋外の喫煙に関する規制が厳しい。報道によると、全国で約1割強の自治体が何らかの形で路上喫煙を条例で規制している。
ポイ捨てや歩きたばこは事故や火事につながる可能性があることから、きちんと規制する必要があるものの、屋外であっても喫煙指定喫煙所でしか喫煙できないということであれば、指定喫煙所はもっと整備することが必要だ。
ロンドン五輪の際には、「ナッジ」と呼ばれる行動経済学の知見を利用した喫煙所整備がすすめられた。例えば、「ロナウドとメッシ、どちらがベストプレイヤーか」などと書かれた吸殻入れをおき、ロナウド側とメッシ側のどちらにも吸殻を入れられるようになっている。
そうすると、ポイ捨てが少なくなっただけでなく、地面に落ちた吸殻を拾って入れてくれる人すら出てくるなどして清掃費用の削減にも効果があったという。このように、ちょっとしたアイデアで、ポイ捨てを防ぐような喫煙場所を作ることは可能だ。