『働き方の教科書』の著者・新将命氏と、『入社1年目の教科書』の著者・岩瀬大輔氏の対談はいよいよ最終回。これからの時代にリーダーとして活躍するには、具体的にどのような資質が求められるのでしょうか? 海外経験も豊富なおふたりが、実際に体験したエピソードを交えつつこの疑問に答えてくださいました。
【前編】「いま押さえておくべき『3つの原則』と『3つの条件』」 から読む
【中編】「45歳までに自分の市場価値を高める3つのスキル」 から読む
パーティーで外国人トップが話題にするのはアートや世界史。
しかし日本人経営者は……
株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年3月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。近著『働き方の教科書』『経営の教科書』(ダイヤモンド社刊)、『リーダーの教科書』(武田ランダムハウスジャパン刊)は、現役経営者、若手リーダーの必読書となっている。
新 これは私自身の経験から言うのですが、グローバルリーダーには、幅広い教養や世界観、歴史観、大局観が絶対に必要です。
私はジョンソン・エンド・ジョンソンやフィリップスなどのグローバル企業6社で社長職を3社、副社長職を1社経験しました。この間、外国でパーティーに出席する機会も多かったのですが、そういった場で日本人はゴルフのスコアと血糖値と子どもの自慢ばかり話しているんです。
一方、アメリカ人は「最近始まった大英博物館の特別展は……」「『ハムレット』に出てくるセリフにこんなものがある」「イタリア中世期の建築は……」といった会話を交わしていました。本物のリーダーというものは、世界の歴史を知り、幅広い教養を持っているものなのです。
私は、日本の経営者は世界のリーダーたちと比べて勉強不足だと思います。本当にゴルフばかりやっていますからね(笑)。しかし血糖値とゴルフの話だけでは、田舎者と見なされてバカにされてしまうんですよ。
ライフネット生命保険株式会社代表取締役副社長。1976年埼玉県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。1998年卒業後、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て米国に留学。2006年ハーバード経営大学院(HBS)を日本人4人目のベイカー・スカラー(成績上位5%表彰)として修了。帰国してライフネット生命保険設立に参画。2009年より現職。2010年、世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」に選出。近著に『入社1年目の教科書』などがある。
岩瀬 私が、ダボス会議で金融系のパネルディスカッションに参加したときのことです。
司会はファイナンシャル・タイムズ紙の主席コラムニスト、パネリストは世界銀行総裁のロバート・ゼーリックやIMF長官といった顔ぶれだったのですが、そこで司会者がゼーリックに向かってこう言ったんです。
「ところで、ゴールド。あれは何だ?」
この発言は、ダボス会議の直前にゼーリックがファイナンシャル・タイムズのオピニオン欄で書いた「金本位制に回帰すべきではないか」という記事が前提になっています。つまり会場にいる人は全員、ファイナンシャル・タイムズのその記事を読んでいるものとして話が進んでいたわけです。
ファイナンシャル・タイムズを購読しているのはもちろんのこと、金本位制とは何かということを歴史的文脈で理解していなければ、話についていくことすらできません。
私自身のこうした経験を踏まえて言えば、少なくとも今の世界がどのようにしてできあがったのかを理解することは必要だと思います。古代の歴史に遡って勉強するよりも、まずは身近な現代史から学び始めるのがいいかもしれませんね。
もちろん、時間があって古代から現代まで網羅的に学べるのであればそれに越したことはありませんが、これから教養を身につけようという方なら、最初からあまりハードルを高くしないほうがいいでしょう。たとえば私の場合なら、保険会社を経営しているわけですから、まずは保険の歴史を勉強すればそれに付随する知識も身につけることができます。