さらに、企業理念を盛り込んだ、世界共通の評価指標となるILM(Itochu Leadership Model)を策定し、伊藤忠商事のリーダーに必要な要件として世界各地の評価項目として反映しています。

 つまり、日本人、海外現地人材といった区別なく、グローバル10万人にもおよぶ人材をどう見極めて、どう高めていくかということを、世界全体を見据えて仕組みを整えていきました。

 2007~2008年といえばリーマンショック前後で、多くの日本企業でまだグローバル人事の必要性すら認識されていない頃でした。そのなかで伊藤忠は、事業の変化に俊敏に反応して、スピード感を持って人事の変革を実行したのです。

いち早く世界中の人材情報を得た伊藤忠
先見性の高さが人事でも活かされる

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 全世界の人材を活用していくには、人材を評価し育成する仕組みを整えるだけではなく、実際に世界中の人材一人ひとりが、どのような経験や経歴を持っているかを把握する必要があります。

 そのため伊藤忠は、2010年に全世界の組織のリーダー人材をデータベース化。全世界で海外事業拡大を担っていく優秀人材の情報が見渡せるようになりました。

 このデータベースでは、氏名・ポジションなどの基礎情報のほか、異動履歴、資格、スキル、キャリア計画、本人の強み・弱みなど60項目以上のあらゆる人材情報が網羅されていて、世界の人材情報を把握し、その育成と活用が効果的に行われるための基盤が整えられています(参考:『日経情報ストラテジー』2011年1月号)。

 グローバル人材データベースによって、世界のどこでどのような人材が不足しているのか、それを充足するために、誰をどのように育成すればよいのかという、まさに人材の世界地図を得たことになります。

 このような仕組みの導入は、現在でこそ多くの日本企業で必要性が認識され、広まっています。しかし伊藤忠は、その重要性を非常に早い段階で察知し、他の企業に先んじて取り組んでいったところに、事業と同様、人事の取り組みにも優れた先見性をうかがうことができます。

 人材は、育てたいと考えてもすぐに育つわけではありません。だからこそ、人事は事業の未来を見据えて先手を打つことが非常に重要なのです。

 伊藤忠のグローバル人材育成の取り組みは、「従来の人事のやり方にこだわることなく、事業の戦略とその変化に応じて先見性を持って人事戦略を推進していくことで、事業の継続的な成長を支える」ということを教えてくれています。