伊藤忠はなぜ商社ナンバーワンになれたのかPhoto by Kazutoshi Sumitomo

「敵失」での純利益No.1
戦いの本番はこれからだ

 伊藤忠商事は2016年3月期決算で、当期純利益2404億円を計上し、三菱商事や三井物産を抑えて商社ナンバーワンになった。

 日ごろから「経営とは駅伝のようなものである」と考えている私にとっては、15年度の商社ナンバーワンは、確かに“区間新記録”を達成できた実績だが、正直なところは「図らずも」と表現したほうがよい実績でもあった。

 明確な戦略と、それに基づく具体的な施策が功を奏した面はあるが、三菱商事や三井物産など、他商社の資源関連での大規模な減損処理という“敵失”によったところが大きかったのも、事実だからだ。

 また、私は毎期の予算達成にこだわり続けてきたが、15年度は計画未達に終わった。のれんや無形資産の損失処理を行わざるを得なかったったからだ。

 本当の実力勝負は16年度以降から始まる。長らく総合商社業界の両雄であった三菱商事、三井物産は、前年度の減損処理を経てV字回復を目指してくるだろう。伊藤忠は、15年度から3ヵ年の中期経営計画「Brand-new Deal 2017」を展開し、17年度までに純利益4000億円に向けた収益基盤構築を目標としている。目標の着実な達成こそが、真の意味での「商社ナンバーワン」の地歩を固めるものであり、私たちの仕事が試されるのはこれからだ。

 石油や天然ガス、鉄鉱石、石炭といった、いわゆる「資源ビジネス」がかつての勢いを失う中、伊藤忠は繊維や食料、機械などの「非資源ビジネス」で強みを発揮している。我が社が躍進した理由は、ここにある。

 私は10年4月の社長就任直後から、「資源バブルが続いているけれど、これから変わる。今までとは違うやり方に変えなければいけない」と、社内外で言ってきた。そして、それは現実のものとなった。「岡藤さんは予言していたのですか?」と聞かれることもあるが、私は予言者などではない。

 ただ、大きく2つ、当時は絶好調だった資源ビジネスに違和感を感じていた。

 1つは、相場の異常とも言える高騰だ。1989年12月に約3万9000円の最高値を記録し、未だにその価格を超えることなく推移している日経平均株価を例に出すまでもなく、上がりすぎたものは、いずれ下がる。そして、「山高ければ谷深し」だ。資源の暴騰が続けば必ず反動が来る。それは誰もが頭のどこかで意識していることではあったが、儲かっているあいだは、分かってはいても誰も舵を切れないものだ。

「当社は高値づかみなどしない」と誰もが言うが、価格が高騰している最中では、高値でしか買えない。しかも、質の良くない権益を必ず高値づかみするものなのだ。これで皆、失敗する。