サティア・ナデラが新CEOに就任後、マイクロソフトは大変革を成し遂げた。従業員12万人を抱える売上10兆円の巨大企業は、いかにして変革を可能にしたのか?最初から答えはなかった。唯一あったのは「世界観」だ。ミッションやストラテジーを語るトップは多くても、「世界観」を語れる人はいない。では、変革のカギとなる「世界観」とは何か?3000人以上を取材したブックライターの上阪徹氏が、日米幹部への徹底取材で同社の全貌を描きだす新刊『マイクロソフト 再始動する最強企業』から、内容の一部を特別公開する。

変革できるトップは「世界観」から考える

「世界観」が大きな変革を可能にした

 マイクロソフトの変革がうまくいった背景として、ひとつ注目したいことがある。サティア・ナデラCEOによる一連の変革については、「Microsoft: Our Mission, Worldview」という会社全体の方向性を示すシートにまとめられている。

 これにより方向性を明確にして、徹底的な取り組みが進められてきた。以下に、ナデラCEOが最初に発表した一連の内容をまとめてご紹介しておきたい。

【Mission(企業ミッション)】
 地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする

【Worldview(世界観)】
 モバイルファースト、クラウドファースト

【Ambition(アンビション:会社として野望/大志を持って注力する領域)】
[1]プロダクティビティ(生産性)とビジネスプロセスを再構築
[2]インテリジェントなクラウドプラットフォームの構築
[3]革新的なパーソナルコンピューティングを実現

【Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)】
 上記の3つの領域を結合させて展開するのが、「デジタル・トランスフォーメーション」

 ・6つのインダストリー([1]ヘルスケア、[2]製造、[3]政府・自治体、[4]流通・リテール、[5]金融、[6]教育)でのデジタル・トランスフォーメーションを目指す

 ・マイクロソフトが提供するソリューション分野(モダンワークプレイス、ビジネスアプリケーション、アプリケーション&インフラストラクチャー、データ&AI、ゲーミング)

 ・そのソリューションで顧客の4つの事象を実現する([1]社員にパワーを、[2]お客さまとつながる、[3]業務を最適化、[4]製品を変革)

 これらすべての推進において、重要なのが、「カルチャー」である。

 ミッションやアンビション、戦略について描かれているのはよくわかる。そのベースとなるのがカルチャーであるということも、想像はできる。

 ひとつ、極めて興味深いのが、2番目の「世界観」(Worldview)である。

 これこそ、ナデラCEOのインド人らしい哲学的なところ。そしてこれもまた、今回の大きな変革を可能にした要素のひとつではないか。