テレビからネットに雑誌、書籍まで、世の中にはまことしやかな「健康情報」が、日々次から次に流れている。コレを食べると「やせる」「血液さらさらになる」などとテレビで放送されると、翌日にはスーパーからその食品が消えるといったことが繰り返されている。
だが、実際にはその情報の信頼度はバラバラで、何の科学的証拠もないものが「とても健康にいい」と喧伝されていることも少なくない。
では、いったい何を信じればいいのかと思ってしまう人も多いのではないだろうか。
そこで、ハーバードメディカルスクールの教授であり医師としても活躍する著者が、信頼性の高い膨大な研究の網羅的な分析によって明らかになったことを集め、「これだけは間違いなく『いい』と断言できる」という食物・習慣を抽出した。その内容を一冊にまとめたのが『ハーバード医学教授が教える健康の正解』だ。ここでは同書から瞑想が脳に及ぼす影響について論じた部分を特別に一部を公開する。
「脳が変化する」というエビデンス
これまで、瞑想はただの自己催眠だ、いや一過性の流行にすぎない、などと批評家に片づけられてきた。
だがさいわい、最近の技術進歩により、瞑想に対する反応を脳画像技術を用いて記録することで、瞑想によって脳内に解剖学的、機能的変化が生じるというエビデンスが得られるようになった。また認知能力や、共感力などの感情に関わる変化の大きさに関しても、研究が進んでいる。
著名な神経科学者で、ウィスコンシン大学マディソン校心理学精神医学教授のリチャード・デイビッドソン博士は、ワイスマン・センターの「健全な心のための研究所」所長も務めている。
彼はfMRI(機能的磁気共鳴画像診断装置)と脳波記録(脳内の電気的活動を計測する技術)を用いて、人が瞑想を行うとき脳内で何が起こっているのかを調べる画期的研究を行った。
瞑想歴の長い6人の修行僧がニュートラルな状態から瞑想状態に移行するとき、脳内で何が起こるかを観察したところ、脳内の(知覚や認知機能をつかさどる)ガンマ帯域で、同期化された高振幅の振動が長時間にわたって持続した。
瞑想状態に移行する際の反応が急激で大きかったことから、「精神活動が直接的に変化した」とデイビッドソンは報告している。対照群にはこうした反応は見られなかったため、瞑想が非常に特殊な脳活動を促すことが証明された。
2000年に、マサチューセッツ総合病院精神医学部門およびハーバードメディカルスクールに所属するサラ・ラザー博士の率いる研究チームが、次のステップとしてMRIを使って「単純な形式の瞑想中に、脳内のどの部位が活性化するかを特定、解明する」ための研究を行い、脳内の複数の部位で「信号の有意な増加を観察」した。
そして最も重要なことに、「この結果から、集中と自律神経系の制御をつかさどる神経構造が、瞑想によって活性化されることを確認した」
いいかえれば、瞑想が脳に変化を起こすというエビデンスを提供することが可能になったのだ。そこで次の疑問が生じた。「この変化はいったい何を意味するのか? 瞑想にはどんなよい効果があるのか?」