発売から2か月を待たずに10万部を突破し、オリコンでも3週連続1位(自己啓発部門)になるなど、売れに売れている本が、『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』だ。
同書が注目を集めるのは、「錯覚資産」という概念を提唱したこと。運よりも実力よりも成功を大きく左右するという「錯覚資産」はテレビでもネットでも話題になり、いまの社会を読み解くキーワードの1つとなっている。
しかし、著者の“ふろむだ”氏によれば、大きな話題になったことで、誤解もされるようになってきたという。そこでこの記事では“ふろむだ”氏自らに、「錯覚資産」への誤解を解き明かしてもらう。
(前篇はこちら


前篇では、

・錯覚資産とは、経歴詐称もしくははったりのことである。
・錯覚資産なんて、すぐに化けの皮が剥がれるから、意味がない。
・錯覚資産という概念は、社会を悪くする。

という錯覚資産への誤解を解いてきました。

次に、『「錯覚資産」は「ブランド」を言い換えただけの言葉に過ぎない』という誤解について。

ブランディングの教科書を読めばすぐに分かりますが、
「ブランド」は、きわめて重要な社会的機能を持っており、
決して、「単なる錯覚」などではありません。

エルメスのバッグの品質がいいのは、錯覚ではありません。
たとえば、エルメスという「ブランド」は、高品質を「保証する」という機能があります。
間違いなく高品質のものを買いたければ、ブランド品を買うのが確実です。

この「保証する」という「機能」は、具体的なメリットであって、錯覚や勘違いではないのです。

ブランド品が高い理由の1つは、この「保証料」が上乗せされているからです。

ただし、ブランド品の価格は、品質料金と保証料金だけでは、説明がつかないほど高いです。
それは主にブランドイメージの分の料金です。

これは、パーセプション(知覚)の中にしか存在しない価値です。
このパーセプション価値の主成分が、錯覚資産です。

なぜ、ブランドという言葉だけでは不十分かというと、

TV・ネットで話題沸騰の「錯覚資産」への誤解を著者自らが解く!

錯覚資産と、それ以外の価値を、分けて考えたほうが、
高い解像度で、的確な判断ができるからです。

たとえば、錯覚資産成分を分離して認識するように心がければ、
錯覚資産で水ぶくれしたブランドではなく、
より錯覚資産成分の少ない、実質的価値成分の大きいブランドの品を買うことができます。

また、自分自身をブランディングするときは、
「実力」と「実力があることの保証」から
「錯覚資産」を分離して取り出し、
それを意識的に運用した方が、うまくいきます。

錯覚資産は認知バイアスによって構成されていますから、
錯覚資産に影響を及ぼす認知バイアスのチェックリストを作り、
それぞれの認知バイアスを使って、
どのように錯覚資産を増やすのかの具体的な戦略とToDoリストを作ることができます。

たとえば、
自分が、より少ないコストで、より大きなハロー効果を作り出すことのできる実績を洗い出し、リスト化することができます。

また、複数の認知バイアスを掛け算して錯覚資産を増幅するアクションプランも作れます。
たとえば、自分のもっている実績のうち、大きなハロー効果を作り出すものをリスト化して、
それらを、誰に、どのように知らしめることで、
利用可能性ヒューリスティックの効果で、
錯覚資産を何十倍、何百倍にも増幅するアクションプランを作れるのかの計画を立てることができます。

誰に対して、どのように好感度を上げることによって、
感情ヒューリスティックによる錯覚資産を、
何十倍、何百倍にも増幅するかの具体的なプランも作れます。

単に、
「自分をブランディングしていこう」
だと、解像度が低すぎて、具体的なアクションプランに
落とし込みにくいです。

「錯覚資産を複利で増やしていこう」
であれば、
上記のように、認知バイアスのチェックリストを作って、
高い解像度で戦略とアクションプランを作り、
具体的な行動に落とし込みやすいのです。

「ブランド」に比べると、「錯覚資産」は、
物理的、生物学的な現象に近いところにあるので、
最新の科学研究の成果も取り込みやすく、
地に足の着いた、具体的なアクションプランも立てやすいのです。

もちろん、錯覚資産は、ブランドという概念を置き換えるようなものではありません。
とくに自分自身をブランディングする場合、
ブランドのうち、錯覚資産に相当する部分だけ、錯覚資産という概念で運用したほうがうまくいく、という話なのです。


『「錯覚資産」は「信用」を言い換えただけの言葉に過ぎない』
という誤解についても、同じです。

「信用という財産を積み上げていこう」と考えているだけでは、
具体的なToDoリストに落とし込むときに、見落としが多くなります。

「信用」の成分を、錯覚資産とそれ以外の成分に分離し、
錯覚資産部分だけ、別に運用したほうが、
はるかに高い解像度で、的確に運用することができます。
遥かにROIの高いToDoリストを作って、
アクションをマネージメントすることができます。


最後に、
『「錯覚資産」は「ハロー効果」を言い換えただけの言葉に過ぎない』
という誤解について。

まず、錯覚資産の定義は、
「人々が自分に対して持っている、自分に都合のいい思考の錯覚」
というものですが、
思考の錯覚を作り出すのは、ハロー効果だけではありません。
さまざまな認知バイアスが、思考の錯覚、ひいては、錯覚資産を作り出すのです。

ですから、
「ハロー効果さえ理解していれば、錯覚資産の概念を理解する必要はない」
というのは、誤解です。

では、認知バイアスを理解していれば、錯覚資産は理解する必要はないのでしょうか?

それは、人によると思います。

錯覚資産などという概念を使わずに、
利用できそうな認知バイアスのチェックリストを自分で作り、
そこから最大限のメリットを引き出すためのToDoリストを作り、
すでに、何十年も前から試行錯誤をしてきているような人たちには、
錯覚資産などという概念は不要です。

しかし、認知バイアスの本を読んで理解はしたが、
それを利用して自分の人生を切り開くための、
具体的な計画を立てたり、
認知バイアスを利用し尽くすための
チェックリストやToDoリストを作っていないような人には、
錯覚資産という概念は有用でしょう。
 

まとめます。

ネットでは、以下の両極端の言説がよく飛び交っています。

・錯覚資産という概念は(誰にとっても)重要だ。
・錯覚資産という概念は(誰にとっても)無意味だ。

この、どちらの言説も誤っています。

「錯覚資産という概念が有用かどうかどうかは、人による」
からです。

あくまで重要なのは、
「錯覚資産という概念が『自分にとって』有用なのか?」
です。

中島みゆきさんの歌の歌詞じゃないですが、
「あなたが錯覚資産を運用できるようになることで、あなたを搾取できなくなる人たち」
のポジショントークは信じないほうがいい
です。

大きな主語で語る他人の言説に惑わされることなく、
あくまで、「自分自身にとってどうなのか」を、
見極めたほうがよろしいかと思います。


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(終)