願ってもない売却先を確保

 トヨタグループや競合への揺さぶり、中国攻勢の切り札、モビリティーサービスの情報収集──。トヨタの打算が凝縮された提携は、ソフトバンク側から見れば、格好の標的が自ら手を挙げてくれたようなものだろう。

 ソフトバンクの投資先企業であるライドシェア4社合計の1日当たりの乗車回数は3500万回。17年の取引総額は計7.1兆円に達した。孫社長は、「(乗車回数ベースで)世界のライドシェアの90%のシェアを握る。われわれが世界で圧倒的最大の交通機関になった」と言ってはばからない。

 その自信の表れとは裏腹に、「孫の本音が漏れてしまった」とソフトバンク幹部が苦笑いしながら振り返るのが、7月に開催されたイベントの講演での1コマである。

「日本はライドシェアが法律で禁止されている。こんなばかな国がいまだにあることが信じられない。未来の進化を自分で止めている危機的な状況だ──」。孫社長はこう声を張り上げ、政府の規制をぶった切った。国内ではライドシェアはいわゆる「白タク」扱いで、道路運送法で禁止されている。ライドシェア解禁を阻もうとする抵抗勢力であるタクシー業界に真っ向からけんかを売ったのだ。

 孫社長がタクシー業界の反発をはねのけ、がちがちに固められた日本の規制を突破するために、トヨタの政治力は強力な援軍になるに違いない。例えば、戦略特区構想の実現が近づくかもしれない。

 何より、“投資家”たるソフトバンクにとって、提携の最大の利点は、投資先のイグジット(出口)戦略を描きやすくなることだ。

 まず、投資先の半導体や保険、地図サービスなどをトヨタグループが採用するようになれば、投資先はさらなる成長が期待でき、ソフトバンクの利益にも直結する。将来的には、ソフトバンクが目利きをしたテクノロジー関連の投資先をトヨタへ売却する選択肢も考えられるだろう。

 思惑先行で電撃提携に至ったトヨタとソフトバンク。世界中の自動車メーカーやIT企業がこぞって参画するモビリティー分野の覇権争いに一石を投じたことだけは間違いなさそうだ。