今、顧客減、会員減に悩んでいる企業は多い。中でも定額課金=サブスクリプションモデルで利益を上げている場合には、会員取得ばかりに目を向けて、離れてしまう顧客には、なかなか有効な手を打てない現状だ。
元WOWOWグループ初の女性取締役であり、顧客を引き留める「リテンションマーケティング」で実績を上げた大坂祐希枝氏が初の著書である『売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法 利益を伸ばすリテンションマーケティング入門』を発売。
この連載では、この著書から一部抜粋してご紹介する。

コミュニケーションを深め、
良い顧客体験に導く

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前回は、時代劇が好きな60代の男性に、番組を見た時の気持ちをきっかけに、おススメ番組を検索する「気持ちデータベース」を使って、洋画を勧めてリテンションを成功させた実例をご紹介しました。

私たちがアマゾンで本を購入する際に表示される、「この本を買った人は、こんな本も買っています」というリコメンドシステムは、類書を探さないで済んだり、意外な本が紹介されたりして「すごいな」とは思います。

ですが、もっとすごい機能のシステムがでてきたら、私ならそちらに転向するかもしれません。

アマゾンのシステムに感じるのはコンピューターが介在したことによる利便性の高さであり、そのシステムを通して企業との間にコミュニケーションが生まれているとは感じません。

自分に合っているリコメンドがあれば購入の可能性が高まりますが、一方でコンピューターを通して企業に自分の嗜好を読み取られたと感じて、今後の利用を少し控えようかと思ったりする人もいるでしょう。

つまり自分の好みにストライクな商品をコンピューターに勧められても、たとえ勧められたものに新鮮な発見があっても、そこにコミュニケーションが発生していると人は感じていないので、体験価値につながりにくいのです。

人と人のコミュニケーションの意味は、人が存在するからこそ顧客の体験価値が上がる、つまり人が存在することによるプレミア感だと私は思います。

この点からも、人を介在させることの意味、人とコンピューターの使い分けの大切さがわかります。

「赤穂浪士からロッキー」の顧客のやりとりが示しているもう一つのポイントは、顧客に「君は(顧客のことが)分かってるね」と言われていること。つまり、オペレーターとのコミュニケーションが、「WOWOWは自分の好みを知っていて、それに合う番組を提供する」という評価に繋がっていることです。

人が、人や企業にロイヤリティを感じる際の重要なポイントは「自分のことを分かってくれる」だと言われています。

人に対してであれば「自分の気持ちを分かってくれる」「自分の立場を分かってくれる」でしょうし、企業に対しては「自分の好みを知っている」「(だから)いつも自分に合う商品やサービスを提供してくれる」ということになります。そして、優良顧客を増やすためにはロイヤリティを高めることが必須なのは言うまでもありません。

顧客とコミュニケーションを深め、良い顧客体験に導く。この流れが作られないとロイヤリティを高めることはできず、優良顧客化も難しくなります。
優良顧客を増やしていくためにも、今後、人が介在するコミュニケーションの必要性は、ますます高まると言えるでしょう。