--------加工食品メーカーの事例---------
「食品偽装が疑われる」というメールが、加工食品メーカーに届いた。担当者はさっそくメールを返信し、すみやかに調査・報告することを伝えた。
1週間後、社内調査で偽装の事実はないことが判明した。そこで、その調査結果をメールで報告した。
ところが、メールの主は納得しなかった。
「社内調査では、なんとでも言えますよね。外部機関に調査を依頼して、詳細な報告書を送ってください」
そんなメールを送りつけてきたのだ。
担当者は再度、次のようなメールを返信した。
「社内調査ではありますが、厳正中立な立場で弊社の中央研究所が調査を行いました。したがいまして、あらためて外部機関に調査を依頼することは控えたいと考えております。なにとぞ、ご理解のほど宜しくお願い申し上げます」
しばらく、メールの主から音沙汰がなく、担当者は一件落着したと安堵した。
ところが、3通目のメールが届いた。文面が暴力的になっていた。
「いいかげんなことを言っていると、さらすぞ!」
「さらす」とは、ネットに公開するという意味である。担当者の頭には「ネット炎上」という言葉が浮かんだ。
(了)
さて、このようなケースには、どう対応すればいいのでしょうか?
「ギブアップ」→「放置」
実は、ネットでも対面でも電話でも、モンスタークレーマーを撃退する方法は極めてシンプルです。
まず、過剰要求に対しては「ギブアップ」すること。ギブアップと言っても、「相手の言いなりになる」という意味ではなく、「相手の土俵に上がらない」ということです。
その「ギブアップトーク」として、覚えておくと便利なフレーズが「K言葉」です。K言葉とは、「困りましたね」「苦しいです」「怖いです」というフレーズです。クレーマーの理不尽な要求に対して、回答するのではなく、「私ではどうしようもない」とお手上げの状態を演出するのです。
そして、不当な要求はきっぱり断ればいい。この一本道をまっすぐに進めば、確実に終わりがきます。
そして、最後のステージが「放置」です。組織として打つべき手をすべて打ったら、あとはクレームが収束するまでアクションを起こさず、相手が諦めて引き下がるのを待てばいいのです。
ネットでの拡散や炎上に過敏にならず、対面や電話での対応と同様に、組織が一丸となって「NO」を伝えた後は、放置すればいいのです。
ネットモンスターを放置することは、「風評が流れるリスク」を抱えるというデメリットよりも、メリットのほうが大きいと考えられます。
なぜなら、組織として「ネットモンスターを放置する」という方針を明確にすれば、それだけでクレーム担当者のストレスは大幅に軽減されるからです。担当者は「ネットにクレーム情報を流されたらどうしよう」という不安から解放されるのです。
大企業では、ネット監視システムなどを導入して、ネットパトロールを行っているところもあるでしょう。しかし、こうしたシステムの導入には、費用と手間がかかります。限られた資金と人材でやりくりしなければならない中小企業にとっては、大きな負担となります。
そもそも、悪質クレーマーの根拠のない情報が元になったネット炎上は、たいてい数日、長くても1ヵ月程度で収束するのが一般的で、何ヵ月も何年も炎上し続けることは、まずありません。
そう考えれば、「放置」することに軸足を置いたほうが、現実的な選択だと言えることがわかるでしょう。
『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、このようなクレーム事例をふんだんに紹介しながら、対面・メール・電話あらゆる場面における正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、クレーマーの終わりなき要求を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。
ぜひ、現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求してください。
最後に、もし、「放置」しても通じない相手に対しては、法的手段に踏み切らざるを得ないケースもあるでしょう。クレーム対応における最低限の法律知識については、明日(10/28)、ダイヤモンド書籍オンラインにて、ご紹介します。
(参考記事)
「半殺しだよ」→「怖いです」
「SNSで拡散するぞ」→「困りましたね」
究極のクレーム対応“K言葉”の活用術