100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、重版が決まった。
本記事では、クレーム対応の基本中の基本である「ギブアップトーク」の話術を、事例とともに特別掲載する。(構成:今野良介)

クレーマーの攻勢をかわす3つのフレーズ

こちらの落ち度かどうかもわからないのに、執拗に理不尽な要求を繰り返すクレーマーに対しては、「ギブアップ」するのが得策です。

ギブアップといっても、相手の言いなりになるわけではありません。次の3つの代表的なフレーズを使って「即答できない」ことを繰り返し伝え、攻勢をかわすのです。

「私ひとりでは判断できません」
「大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」
「お急ぎかもしれませんが、今すぐというわけにはいきません」

担当者はその場から逃げ出したり、後ずさりしたりするのではありません。身体を開きながら、一歩斜め後ろに身を引くというイメージです。こちらに突進してくるクレーマーは、目標を見失って自らバランスを崩すでしょう。

柔道の「体さばき」をご存じでしょうか?投げ技を仕掛ける際、片足を後ろに引いて相手に対して直角になる「後ろさばき」というものがありますが、そんなイメージをもってください。

こんなケースがありました。

---------食料品店の事例---------

閉店間際の食料品店に、「今日買った佃煮を夕飯で食べたら、腹が痛くなった」と訴える男性が訪れた。

男性は、とくに苦痛を我慢している様子ではなかったが、「これから病院に行くから、タクシー代がほしい」と言う。店内にはまだ数人のお客様がいたが、チーフが最寄りの救急病院までタクシーで同行した。

「どうして店長が来ないんだ?」と、男性は不服そうだった。

一方、男性が持参した現物と購入履歴を店長が確認すると、たしかに賞味期限が2日間切れていた。すぐに現物を冷凍保存した。

病院で診察を受けた男性は、どこか様子がおかしい。ときおり、診察室から男性のとがった声が聞こえてくる。どうやら医師と言い争いになっているようだ。

しばらくして診察を終えた男性を、チーフが自宅までタクシーで送った。今後の対応については、後日あらためて話し合うことになった。

翌日、店長は保健所に連絡し、賞味期限切れの佃煮を販売した事実について報告するとともに、現物の病原菌検査を依頼した。その後、男性宅を訪問するために電話をかけると、「まだ気分が悪い」ということで話し合いは延期された。

その2日後、店長はチーフをともなって男性宅を訪れ、謝罪した。しかし、店長がそれまでの経過報告を行っている途中で、男性は話をさえぎって言った。

「診療費はどうした?」

「はい。今回の診療費は支払わせていただきます。今後につきましては、診断書を拝見してから、対応させていただきたいと考えております」

すると、こともなげにこう言う。

「休業補償をしろ!もう3日も仕事を休んでいるんだ。明日も仕事に行けるかどうかわからない」

店長が押し黙っていると、さらにたたみかけてきた。

「子どもがまだ小さいし、家計が苦しいんだよ。実際に賞味期限切れだったんだろ。それぐらいのことはしてくれてもいいんじゃないか?」

「私ひとりでは判断できません。大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」

----(事例中断)-----

ここで、苦しまぎれに「そうですか。わかりました」などと安請け合いをしては絶対にいけません。ギブアップトークで応じるのが賢明です。

ギブアップトークとはつまり「相手の土俵に上がらないこと」です。

しかし、相手が納得するとは限りません。むしろ、「はい、そうですか」と引き下がるケースは稀でしょう。

実際、このときも、男性は納得しませんでした。続きはこうです。