100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、続々と異例の大重版が決まっている。

本日(10/27)、後編が放映されるNHKドラマ『フェイクニュース』が話題だ。前編では、食品系企業の「異物混入疑惑によるネット炎上」が題材の1つになっていた。本記事では、企業を悩ませる「ネット炎上」の対処するための1つの考え方を、事例とともに特別掲載する。(構成:今野良介)

「事実」に目を向け、安易に要求に応じない

一見すると「普通の人」が、思いもよらない理由で、クレーマーとして過剰な要求を突きつけてくることがあります。

たとえば、こんな事例がありました。

-------食品メーカーの事例--------

食品に異物が混入しており、自主回収に至ったケースである。大企業の情報管理部門に勤める50代の男性からクレーム電話が入った。

「オタクの商品が自主回収になっているようだが、どうするつもりだ?」

電話に出た担当者は、お詫びするとともに、社内規定に沿って回収・返金で対応していることを伝えた。すると、気難しい声で男性は言った。

「それだけ? ちょっと納得できないな。返金してもらうのは当然だけど、きちんと契約書にしてもらえないかな」

数百円の商品代金と200円足らずの郵送代の受け渡しにあたって、契約書を交わしたいという申し出である。

担当者は困惑したものの、「上の者と協議いたします」と伝えて、いったん電話を切った。

後でわかったことだが、男性は、部下をともなって休日出勤した日、この食品を購入し、部下にふるまっていた。

そのときに一緒だった部下のひとりから、「課長、あのスナックにヘンなものが入っていました。自主回収だそうです」と耳打ちされ、受話器をとった。

つまり、上司としての面子をつぶされことが我慢ならなかったのだ。

また、担当者の木で鼻をくくったような話し方にもカチンときたようだった。担当者は折り返し電話をかけたが、「契約書は?」の一点張りだった。担当者は、男性のかたくなな態度に根を上げてしまった。

(了)

当然ながら、この返金手続きは、わざわざ契約書を交わすほどのものではありません。

このケースでは、遠路はるばる男性の職場まで足を運んで「弁護士とも協議いたしましたが、契約書にはなじまない案件だと考えております」と、じかに会って説明したところ、それで溜飲を下げたのか、とくに反論もありませんでした。

結果的に、訪問謝罪が「ガス抜き」になったわけです。

しかし、忘れてほしくないのは、相手の立場を慮って契約書を交わすことはしなかった、ということです。相手の要求そのものは「放置」しているわけです。

このように、こちらの落ち度とは別の理由でクレームが肥大化することもあります。相手の個人的な事情や感情につき合っていては、身も心も疲弊するばかりです。

対応に苦慮する「難渋クレーム」のレベルに入ったら、いたずらに相手の心情に寄り添うのではなく、「事実」に目を向けて対応し、安易に相手の要求に応じないことが大切です。

根拠のない情報を拡散するネットモンスターは「放置」がベスト

近年では、SNSを中心に、いわゆる「ネット炎上」が頻繁におきています。

ひと昔前は「マスコミに言うぞ!」「ビラをまくぞ!」がクレーマーの常套句でしたが、今は、「ネットにさらすぞ!」のフレーズのほうが脅威です。「ネットに、あることないことを書き込まれ、SNSで拡散されたらどうすればよいのか」。そんな不安を抱く人は多いようです。

相手から「ネットで……SNSで……」と脅し文句を浴びせられれば、つい「やめてください!」と口走ってしまうかもしれません。しかし、これは禁句です。その時点で、クレーマーと担当者のパワーバランスが完全に崩れてしまうからです。

「ネットに流すぞ」「SNSで拡散するぞ」「ツイッターに投稿するぞ」などと言われても、「困りましたね。でも、私どもがとやかく言える立場ではありませんから……」と、相手の言葉を引き取ればいいのです。

とはいえ、「拡散」の恐怖とダメージは計りしれません。たとえ情報の信憑性に疑問があっても、「おもしろい」という理由だけでリツイートする人は大勢いますから、「ネット炎上」が起きる可能性は常に潜んでいると言えます。

しかし、ネット炎上を狙うクレーマーの挑発に乗ってしまうと、相手の思うツボです。メールやSNS上で論争しようものなら、その一言一句がネット上に公開されることもあります。

次のページで、もう1つ事例を紹介しましょう。

NHKドラマ『フェイクニュース』でも描かれた“ネット炎上対策”の困難さ。しかし、最終手段は「放置」すること。ネットクレーマー対策の軸は1つ。