100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、重版が決まった。
本記事では、クレーム対応を心得たスーパー店員の事例一部始終と、相手の本音を聞き出す、元警察官の著者オリジナル「職質式・尋ねる技術」を特別掲載する。(構成:今野良介)

話が支離滅裂なクレーマーにどう対応するか?

悪質なクレーマーは、「話が飛びやすい」のがひとつの特徴です。

担当者をおだてたり、けなしたりしつつジワジワと締め上げてきたり、時事問題などを持ち出して論点をはぐらかそうとしたりするのです。

「天下の○○社が、こんな対応でいいのか?」「これじゃマズいだろう」「最近の世の中は……」などと“波状攻撃”を仕掛けてくるのです。

そんな中、こんなケースがありました。

支離滅裂な恐喝まがいの悪質クレーマーを“完全撃退”したプロ店員の全話術クレーム対応の「成功例」を紹介します

--------スーパーマーケットの事例--------

ローカルスーパーでの出来事。ことの発端は、「女性店員の態度が悪い」という30代の男性からのクレームだった。

「半額セール商品の値札が違っていた。だから、レジに向かって『ちょっと、お姉さん!』と大声で呼んだのに、なかなか来てくれなかった」

男性は店長にこう文句を言って帰ったが、その後も、しつこく電話をかけてくるようになった。そこでお客様相談室にバトンタッチした。すると……。

「山田(仮名)って女、クビにしたほうがええんちゃう?愛想のかけらもない」

先制パンチが飛んでくる。この男性は従業員が胸につけている名札を見て、女性店員の名前を覚えていたようだ。そして、間髪を入れずに山田には土下座して謝ってほしい」と、二の矢が飛んできた。

ところがその後、男性は声のトーンを落として言う。

「仕事で徹夜した後は、できたての弁当が楽しみでね。それなのに、接客マナーが悪くて気分が台無しだ。店員個人のせいというより、会社の教育が悪いからだ」

また、こんなことも言い出す。

「これまでにもレジの打ち間違いが何度もあったと思う。僕がなんぼ損しているのかはわからん。レシートが残っているわけじゃないが」

さらに、脈絡のない会話が延々と続く。

「あの女、挨拶もろくにできない」
「申し訳ございません。従業員の指導を徹底してまいります」
「『半額セール』と書いてあれば買いたくなるよな。その値札が間違っていたらオタクならどう思う?」
「誠に申し訳ありません。お求めの商品をご用意致しますのでお持ちください」
「オタクの弁当類は本当においしい。とくに揚げ物がうまいね」
「ありがとうございます」
「仕事では決算書をつくったりしとるのよ。ビジネスマンとして、数字は気になるんだ。だから、いつも広告の値段やレシートをチェックしている」
「さようでございますか」
「ぶっちゃけていえば、証拠がないのに『金を返せ』とは言えない」
「はい」
「ボクはこれでも、法学部出身でね。司法試験は受けなかったが、法律には詳しいほうだ」
「そうですか。すごいですね」
「金銭の問題じゃない。補償してくれるといっても、現金や商品券でもらうのは気が進まんな」

恐喝にならないよう予防線を張っているが、物欲しげな気配がビンビン伝わってくる。そして、ついに馬脚をあらわした。

「ホンマは『カネとかはいらん!』と言いたいんやけど、それでは気持ちが収まりませんよ。僕の気持ちもわかってくださいよ。クレームがあったら、仮に客に非があったとしても、手土産を持って謝罪に行くもんでしょう」

丁寧な物言いに変わったが、要するに、金品の催促である。

-------事例中断---------

ここで、相手のペースに巻き込まれて「では、お詫びにうかがいます」とでも答えてしまっては、相手の思うツボです。

「顧客満足」から「危機管理」にモードチェンジして、クレームを収束させる方向にもっていかなくてはなりません。

この担当者は、うまくモードチェンジした好例です。顚末は次のようなものでした。

--------事例再開---------

「お客様のご指摘は、私どもにとってたいへん勉強になりました。ありがとうございます」

まずは、こういう言い方で「終結」をほのめかしたのだ。すると、クレーマーは最後の攻撃を仕掛けてきた。口調もガラリと変わる。

「アンタ、ボクに敵意をもってるんか? こちらに証拠がないことをいいことに、『知らぬ、存ぜぬ』か!怖いなぁ。この一件が原因でうつになって、仕事ができんようになったらどうしようかと、不安になるわ」

もはや支離滅裂。恐喝に近いといってもいい。ここからは「できないことは、できない」と、はっきり告げる段階に入る。

「では、どのようにすればよろしいでしょうか?」
「ウーン、とにかく山田の謝罪がほしい」
「はい、お詫びはきちんとさせていただきます。ただ、山田をクビにしろとか、土下座させろとおっしゃるのであれば、私どもとしても看過できません」
「それはわかっとる。クビとか土下座はしなくていい」

クレーマーは、担当者のきっぱりとした口調に少しひるんだようだ。

「よく言い聞かせ、今後の業務に生かすよう、しっかり指導してまいります」

これで、クレーマーは手詰まり状態になった。そして、こう言い残した。

「その言葉を待っとったんや」

担当者は「今後とも、ごひいきにしてくださいますようお願いいたします」と述べるにとどめた。

(了)

3つのモードで本音を聞き出す

この事例のように、相手に取り込まれないように間合いをとりながら、問題の核心にピントを合わせるのは、なかなか難しいことです。

私もクレーム対応に取り組んだ当初は、その感覚がなかなかつかめませんでした。最初から根掘り葉掘り聞いたり、矢継ぎ早に質問したりすれば、悪意のあるクレーマーではなくても反感を買います。だからと言って、いつまでも下手に出ていると、肝心なことを聞けないまま時間だけが過ぎていきます。

そこで、クレーマーの本音を引き出す「尋ねる技術」を紹介します。