同年から始まったアラブ各国の民主化運動はシリアで内戦に発展した。この結果、イラクとシリアで強力な中央政府が失われ、イスラム国(IS)とイランがその間隙を突いて影響力を拡大したのである。

 こうした中東各国の力のバランスが変化した責任の一端は米国にもある。

 イラク戦争を不用意に始めてイラクの体制を破壊したブッシュ政権、そのアンチテーゼとして誕生しながら、シリアで不介入政策を堅持し、同国の今の惨状を招いたオバマ政権。こうした米国の「失政」の結果、中東地域には過激なイスラム至上主義が蔓延し始め、今や旧オスマン帝国の中東部分のさらなる崩壊を招きかねない重大な状況が生じつつある。

 どうやら今回の「記者殺害」事件の背景には、最近、中東地域で影響力を拡大しつつある国々の存在があるようだ。

 域内国ではやはりトルコとイランの自己主張の拡大、域外国ではロシアのシリアにおける軍事プレゼンス増強が顕著だ。こうした中、米国のトランプ政権は対外関与を最小限とする「米国第一主義」政策を実行しつつある。

 これらの国々の動きが中東地域の安全保障バランスを再び不安定化させる恐れもなしとしない。

 筆者が最も恐れるのは、サウジアラビアやアラブ首長国連邦を含むGCC(湾岸協力会議)諸国にまで、かつての旧オスマン帝国崩壊の際のプロセスが波及することだ。

 現在、欧米で見られるナショナリズムやポピュリズムの台頭については、中東でも似たような現象が起きつつある。唯一の違いは、中東では格差の拡大などで現状に不満を持つ勢力が宗教ナショナリズムを政治的イデオロギーとして使う点だろう。

歴史的変動期に入る可能性
「中東回帰」のトルコ

 こうした歴史的経緯を踏まえ、中東湾岸地域の現状を改めて分析すれば、以下のような仮説を立てることが可能だろう。

 まずは、東湾岸地域が20世紀初頭以来、100年ぶりの歴史的な変動期に入り始めている可能性があることだ。

 オバマ政権以前の米国の度重なる軍事介入により、同地域の不安定化はむしろ深刻化している。そうした状況を利用して、中でもイランが自国の政治的、軍事的影響力を拡大しようとしている。

 イスラム教シーア派国民の多い地域大国イランの台頭を最も懸念するのがサウジアラビアだ。