しかしながら、後任者はこれまで全く別の世界に身を置いており、中には引き継ぎをする人よりも有能なケースが、多々あるものです。もちろん、何の経験もない新卒社員に対して、その業務の主軸となる部分を押さえてもらい、大事な目的や手順について丁寧に説明することは必要でしょうが、たとえ経理職ではなくても他社で経験を積んだ人に対しては、その方の意見も取り入れながら進めることで、さらに効率よく仕上がり、付加価値の高い業務になり得ることも十分にあるのです。

 社会人経験者に引き継ぐ際、教える側は謙虚になり、適度に間を置いてコミュニケーションをとりながら、「この方法についてどうですか?」「あとからでもいいので、何か意見があれば遠慮なく言ってください」といった具合に相手方を尊重しながら進めることで、新任者にとっては「認められている」といったインセンティブにも繋がり、他の経理部員らも良き刺激になるでしょう。ひいては、今後の新任者の活躍により、経理部全体の士気が大いに高まるはずなのです。

引き継ぎは企業や人材を
成長させる絶好のチャンス

 筆者は“引き継ぎ”もテーマにした講演活動に従事していますが、受講生の方の多くは「どうずれば、漏れなく引き継ぎできるか」を専ら注視し、人材の成長まであまり視野に入れてはいません。その背景には、昨今の人手不足や業務が複雑化していることなどが影響しており、中には「そこまでの余裕がない」との意見も多く聞かれます。

 しかしながら引き継ぎは、前述したとおり、マネジャーが部下の業務事情を改めて振り返る場になる上、新任者の存在が他の部員たちにも影響を及ぼしながら、部署全体の業務もさらに付加価値を生むような展開が期待できるのです。

 単なるバトンタッチと捉えるのは誤りです。転勤、異動、定年退職などなど、必ずや引き継ぎの場面があります。「じっくり引き継ぐ時間などない!」という言い訳を払拭しましょう。

 まず、マネジャークラスは自身の仕事と部下が携わる業務について、スキマ時間にでも引き継ぐ準備を進めましょう。これを怠ると人材・自社の成長が望めないことを肝に銘ずるべきです。

(ビジネス作家・経理環境改善コンサルタント 田村夕美子)