『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』の発刊を記念し、2018年12月18日にイベント「孫泰蔵とみんなで描く!つまらなくない未来」(Mistletoeとダイヤモンド社が主催)が都内で開かれた。孫泰蔵氏に加え、キャリアの異なる6人の豪華ゲストと、参加者約100人が集まり、働き方や教育、女性活躍、伝統産業・文化など10に及ぶテーマから、つまらない未来とは何か、そして「つまらなくない未来」をそれぞれがどう描けばいいのかを語りあった。今回は、全3回の後編として「お金」「会社」「伝統」「女性活躍」をテーマにお届けする(構成・撮影小島健志)。

現金、電子マネー、クリプトカレンシー……
つまらなくないお金の未来とは?

司会 イベント後半は、事前に集めたアンケートを基に8つのテーマから、時間の許す限り、1つずつ議論をしたいと思います。最近、キャッシュレスが各地で話題です。お金はなくてはならないものなので、関心の高いテーマですが、「つまらなくないお金の未来」はどういうものだと思いますか。

田鎖智人 Tomohito Takusari / ジャパンネット銀行 代表取締役社長
早稲田大学政治経済学部卒業後、日本信販(現三菱UFJニコス)を経て、2003年ヤフー入社。ポイントサービスの立ち上げと統合、クレジットカード事業やウォレットサービスの立ち上げ等、ポイント・決済関連の事業を担当。2006年ジャパンネット銀行との資本業務提携に伴い、同行社外取締役に就任。ヤフーセントラルサービスカンパニー決済金融本部本部長などを経て、2018年2月から現職。

田鎖 自己紹介(注:前編参照)でも触れたとおり、私は社会から現金をなくしたいと思っています。現金って、汚くないでしょうか。色々な人が触り、洗うこともなく、ずっと流通している。気持ち悪いとすら思います。理屈で考えても、現金よりデータのほうがはるかに効率的で便利です。
 われわれも理屈でずっと取り組んでいたのですが、どうも動かない。ひっくり返らない。最近、気づいたのは、これは理屈ではないということです。そこで、とりあえず現金を使わない体験をしてもらうことが大事だと考えました。
 たとえば、携帯を使ったことがない人が昔はたくさんいました。それが一度、持ちはじめたら、皆が手放せなくなりました。同様に、現金をずっと使っていた人が、現金ではない世界に足を踏み入れれば、現金の世界には戻れない、と。
 最近でいえば、PayPayのキャンペーン(注:利用金額の20%をポイント還元するということから話題になり、100億円の原資が10日で尽きた)があります。これは、理屈で説明する前に、とりあえず使ってもらおうと、感情に働きかける取り組みでした。周りで使っていたら自分も使ってみたくなるように、1回現金のない世界を体感してもらう。その先にキャッシュレスの未来が実現すると考えています

孫泰蔵 Taizo Son / Mistletoe ファウンダー
連続起業家(シリアルアントレプレナー)
世界の大きな課題を解決するスタートアップを育てるため、投資や人材育成、コミュニティー創造などを行うMistletoeを創業。コレクティブ・インパクト・コミュニティー(Collective Impact Community)という新業態を掲げ、現在世界を舞台に活動している。

 未来はどうなるのかわからないですが、僕の思う「つまらなくない未来」においては、お金はどんどん減っていきます。ある時期を境に、世界の法定通貨の流通量がガーッと減ると見ています。
 その台風の目になる可能性が高いのが、エストニアのエストコインというクリプトカレンシー(仮想通貨)です。もちろん、この名前も決まっていませんし、議論もまだ終わっていませんから、仮で呼んでいます。
 エストニアは、利用者1000万人の獲得という目標を掲げて、イーレジデンシー(注:居住権は与えないものの、エストニアの仮想住民としてIDを発行する仕組み)を始めました。僕は、この住民たちの間で、クリプトが回りはじめるのではないかと考えています。
 この仮想住民たちは、反社会的な勢力かどうかの審査を受けて残った人々です。その人たちの間で、価値交換の手段にエストコインのようなクリプトが用いられるなら、経済がこれまで以上に円滑に回りはじめます。法定通貨がいかにキャッシュレスになろうが、既存のバンキングシステムの上にある以上、クリプトのほうが比べものにならないほど便利でしょう。

田鎖 クリプトがどれほどの量を持つと現物との交換でなされるのか、その共通コンセンサスがないと、なかなか流通が始まらないのではないでしょうか。どこかで来るのだろうなと思いつつも、いつ来るかについては想像しにくく、私自身モヤっとしています。

 クリティカルマスのような「閾値」の話ですね。はっきりと「この線より先にある」といえるものではありません。何となく機運が高まってきて、ある程度の信用があり、広範囲にわたるプレイヤーたちがお互いに価値交換を始めると、皆が集まってくるものだと思います。
 その点、イーレジデンシーが1つのプラットフォームになるのではないでしょうか。エストニアは、EUからにらまれるので明言はしませんが、戦略的に少しずつ進めている感じがあります。
 もう1つは、ノンプロフィット(非営利)の世界からクリプトが生まれていく可能性が高いとも考えています。NPOやNGOの活動は、国をまたいで行おうとすると、各国の税制適格のライセンスをとらなければいけない。たとえば、アジアにまたがる奨学金の財団をつくろうとすると、各地に1つずつ財団をつくっていかないとうまくいかないのです。
 一方で、クロスボーダーで取引をしたい需要は高く、マネーロンダリングに使われる心配がないとわかれば、世の中的にも受け入れられやすい。もしかしたら、エストニアをハブにして、クロスボーダーに各国の社会貢献につながる仕組みができるかもしれないのです