孫泰蔵さん監修『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』の著者が、「つまらなくない未来」を切り開いてきた人たちをインタビューする新シリーズ。第1弾は、米Fracta(フラクタ)共同創業者兼CEOの加藤崇さん。加藤さんは、東京大学発ロボットベンチャーSCHAFT(シャフト)を米グーグルに売却後、フラクタを創業し、その売却も果たしたシリアルアントレプレナー(連続起業家)だ。この度、スタートアップ経営のリアルを描いた新著『クレイジーで行こう! グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む』(日経BP社)の発刊に際して、お話しを伺うことができた(文・撮影 小島健志)。
全米100兆円規模の社会課題に挑む
日本人AI系スタートアップ経営者のリアル
――フラクタはどのような事業を行っている会社なのでしょうか。
端的にいえば、全米の水道事業者に対して、AI(人工知能)のソリューションを提供している会社です。米国ではいま、老朽化した水道管の破損・漏水が年間24万件ほど発生し、大きな社会課題となっています。インフラの更新費用は2050年までに100兆円以上かかるともみられており、われわれは、そのうちおよそ40兆円は削減できるというソフトウェアを開発しました。
――機械学習を利用したということですが、それにより具体的に何を明らかにしたのでしょうか。
Fracta共同創業者兼CEO
1978年生まれ。早稲田大学理工学部(応用物理学科)卒業。元スタンフォード大学客員研究員。東京三菱銀行等を経て、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTを共同創業し、同社を米国Google本社に売却。2015年6月、人工知能により水道配管の更新投資を最適化するソフトウェア開発会社(現在のFracta, Inc.)を米国シリコンバレーで創業し、CEOに就任。2018年5月に株式の過半を栗田工業株式会社に売却する。著書に『未来を切り拓くための5ステップ』(新潮社 2014)、『無敵の仕事術』(文春新書 2016)。
水道管破裂のメカニズムです。地中には、およそ100年間は持つといわれるねずみ鋳鉄管(ちゅうてつかん)を含め、ダクタイル鋳鉄管や、アスベスト管などが埋まっています。それが年を経るごとに腐食し、あるとき破れ、漏水が起きます。
ただし、配管の寿命が「100年間」といっても、それは平均値でしかありません。60年で破裂してしまう場合もあれば、180年も持つ場合もあり、分散が大きいのです。そこで、過去の破損データやさまざまな経年劣化の原因から、経年劣化するスピードを予測し、インフラ更新の投資効率を高めるソフトウェアを開発しました。
カリフォルニア州サンフランシスコ周辺にある水道事業者の例を挙げましょう。彼らは、およそ4200マイル、6700キロメートル相当の配管を管理しています。配管セクションでいえば10万地点に及ぶ、広大な範囲が対象です。それをもぐら叩きのように、壊れそうだとなったら更新するという工事を繰り返してきました。
工事をするには、3ヵ月前に行政の許可をとらなければなりません。この下の配管から漏れそうだとわかっても、すぐには工事に着手できないのです。
さらに、工事は1マイル区画ごとに行われます。配管セクションによっては、壊れそうな地点とそうでない地点とが入り混じっており、1地点が壊れそうだからといって、必ずしもその区間すべてを更新するのが効率的ではない場合もあります。
そこで、われわれが10万セクションすべての壊れやすさの確率を出して、工事区画ごとの投資評価を出しました。それによって、インフラ更新の予算効率を高めることができたのです。現在、米国で30社以上に導入し、日本でも展開を始めたところです。さらに日本では、東急電鉄と組み、鉄道関連資産に関する予兆保全ビジネスにも着手しはじめました。