そもそも「カイシャ」って何のためにある?
スマートコントラクトで変わる会社のかたち

司会 次のテーマにうつります。(カードを引いて)はい、「カイシャの未来」です。「大企業ほど、20世紀型経営のままで、若者にチャレンジする機会が与えられていません。『つまらなくない会社』のイメージについて教えてください」とありますが、いかがでしょうか。

お金も会社も家族も再定義できる!?<br />スマートコントラクトが変える未来のかたち 巣籠悠輔 Yusuke Sugomori / MICIN 取締役CTO
学生時代にGunosy、 READYFOR の創業に関わり、 大学院修了後は電通にてデジタルクリエイティブの企画・制作、ディレクションに従事。Googleニューヨーク支社勤務を経て、MICINを共同創業。2016年9月より東京大学招聘講師。 著書に『Java Deep Learning Essentials』(Packt Publishing)『詳解ディープラーニング』(マイナビ出版)等。東京大学工学部システム創成学科卒(首席)、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻卒。

巣籠 どうでしょうね。「チャレンジする機会が与えられていないと思う」ということは、その時点で、その方自身にチャレンジする気概があるので、リスクをとって、挑戦してみたらいいのではないでしょうか。
 私も、一時、電通という会社に勤めていました。ずっとわがままを言いつづけたら、案外、聞いてもらえました。もし、チャレンジする機会が本当にないならば、そういう会社は淘汰されていくのではないでしょうか。

堅田 巣籠さんと同意見です。そんな会社は辞めればいいと思います。AIもデータ分析もそうですが、やはりフタをあけてみないとわからない。不確実性がより高くなる中で、チャレンジできるかどうかが重要だと思います
 もっとも、最終的には、会社という組織そのものがなくていいのかもしれません。データサイエンティストが集まっている会社だからそう感じるのかもしれませんが、会社ではなくてもできることが増えています。個々人の得意なことができるのであれば、階層型の組織や、指示命令系統もいらないのかもしれません。少なくとも、いまの組織の形が続くとは思いません。

お金も会社も家族も再定義できる!?<br />スマートコントラクトが変える未来のかたち 堅田洋資 Yosuke Katada / データミックス代表取締役
外資系大手企業、有限責任監査法人トーマツを経て、2015年に白ヤギコーポレーション入社。2017年2月にデータミックス設立、代表取締役就任。日本では数少ない米データサイエンス修士号を保有し、同社でデータサイエンス人材の育成を行っている。一橋大学商学部卒業、サンフランシスコ大学データ分析学修士。共著に『フリーライブラリで学ぶ機械学習入門』(秀和システム)。

司会 この中ですと、最もフツーの会社に勤めているのは田鎖さんですね。

田鎖 フツーって(笑)。普通の組織というより、普通じゃないぐらいしっかりすることが求められる業界ですから、そのため、銀行ってチャレンジしにくいと思われています。
 確かに銀行なので、お客さんのお金を間違えてしまうことは許されません。ですが、失敗できる枠組みをつくることはできます。たとえば、ウェブのコンテンツはAよりもBのほうがよかったよね、とか、チャレンジできる分野を定義し、その枠を会社として作っていくことができるのです。
 そもそも、1人でできることには限りがあります。どんなに優秀でも、自動車を作りたいとなると1人では難しいですよね。大きなことをやろうと思った時に、志を1つにするための器が会社の役割だと思います。共通の目標の持った集団ができることで、個の力を引き出すこともできるでしょう。

山崎 大きな目的のために集まってくる、そういう生命体みたいなものが会社であるべきです。おっしゃるように、会社は目的ありきだと思うのです。ある目的に対して、人を集めて、資源を投入する。それが回っている間は、会社の存在価値があります。
 中には、会社を存続させることが目的になっている場合もあります。当初の目的が達成しているのに会社を残すから、その存続のために新規事業をやって、何だかわけのわからないことに手を出して、結局、みんなと同じことをやってしまう。
 こうなると、組織が何のためにできたのかに、立ち戻る必要があります。その点、もう少し、起業と解散がゆるやかに、素早く、色々なタイミングでもっとできるといいなと思います。

お金も会社も家族も再定義できる!?<br />スマートコントラクトが変える未来のかたち ラウル アリキヴィ Raul Allikivi / Planetway取締役
エストニア生まれ。エストニア経済通信省局次長を経て民間へ。コンサルティング会社ESTASIAや、日本のクラフトビールを欧州へ輸入するBIIRUを設立。現在、Planetway取締役。日本・エストニア/EUデジタルソサエティ推進協議会理事も務める。タルトゥ大学卒、早稲田大学修士課程修了。共著に『未来型国家エストニアの挑戦  電子政府がひらく世界』(インプレスR&D)

ラウル 組織には目的が必要になると思います。起業するということは、何かの未来を想像して、その未来を実現するために実行することに他なりません。1人でできない時には、誰かを呼んで組織にすることもあるでしょう。未来をつくるための組織が会社であって、何のために存在するのかわからないのでは意味がないですね

 ええ、僕は違った視点で会社を見ています。いま、スマートコントラクトに注目しています。現在は、概念と原始的なテクノロジーでしかないのですが、スマートコントラクトが普及した世界をイメージして、会社を考えてみるといいと思います(注:スマートコントラクトの参考記事「組織はプロジェクト型へ」
 いまの会社と個人の関係でいうと、個人が会社に「属するもの」とみられています。「どちらの会社に勤めていますか」と聞かれるように、属することが社会の前提となっています。
 ですが、スマートコントラクトが普及すれば、会社と個人はもはやそういう関係ではなくなるでしょう。リーガルエンティティ、つまり法人という概念は、個々のスマートコントラクトの集合体になるのではないかと思います
 さらに、「分人(ぶんじん)」という考え方(注:個人の人格は1つではなく、対人関係に見せる複数の顔がすべて本当の自分であるというもの)があるように、個々人のアイデンティティーは1つではなくて、複数の人格を持って、僕たちが存在します。スマートコントラクトの上にAIが搭載されると、異なるアイデンティティーが生命のように、ワーッと走り出して、会社や組織というものも人工生命のようなものになっていくのだと思います。
 色々な意思がコントラクトに反映され、それがアルゴリズムになっていて、人工生命のようになって、個人の存在が規定されていく……あれ、俺、何をいっているんだろう(会場笑)。

司会 これまでは共通目的があるから会社の存在意義があるということでしたが、これからはプロジェクトベースでもいいし、同じ志を持つ人が集まれば、それが会社のようなものになるのかもしれません。目的を達成したら、解散するという自由なものになるのだと思いました。
 さあ、次にいってみましょう。(カードを引いて)「伝統の未来」です。「伝統産業の技能や伝統文化が継承されずに失われていくのが『つまらない』です。どうしたらいいでしょうか」とありますが、いかがでしょうか。