新型アンテナは単体で売れず
「部材売り」には限界があった

 当日、午前7時に会場入りした帝人の平野義明は、ピリピリした空気の中で、ローソンが展示するリアルタイム在庫管理システム(RFID棚管理システム。レコピック)の最終確認に臨んだ。

 RFIDとは、Radio Frequency Identificationの略でHF帯(短波)やUHF帯(極超短波)などの無線認識技術の一種だ。IC(集積回路)を搭載した小さなチップで、さまざまな物を識別・管理する技術を指す。

 レコピックとは、レコード(記録)とピックアップ(取り出す)を合わせた造語で、ICチップ、アンテナ、読み取り機などのハードウエアに加えて、パソコン上で操作するためのソフトウエアなどから成るシステムの総称である。

 それにしても、なぜ、旭化成や東レと同じように合成繊維などを扱う帝人が、ITシステムを開発しているのか。平野は「素材ではなく、物の出し入れが一目で分かるシステム製品だ」と強調する。

 もともと帝人は、素材メーカーとして培った技術を基にスマートフォンなどの内部に使われる「電磁派シールド」(電磁波を制御する部材)を製造してきた。その土台の上に、東京大学発のベンチャー、セルクロスが持っていた“電波を閉じ込める技術”を乗せ、大量生産に適した部材としての「セルフォーム」(厚さ約3ミリメートルの板状のアンテナ)を開発していた。

 だが、08年に発表された薄型のアンテナは、専門家筋からもガジェット通のマニアからも注目されなかった。当時は、高速大容量のWi-Fi(無線LAN)の普及期で、通信の範囲をあえて狭く設計したアンテナは、単体では市場に受け入れられなかったのだ。

 しかも、技術力に自信を持っていた帝人は、素材メーカーというDNAを持つが故に100年近く続けてきた行動原理に則(のっと)り、「市場に出して、誰かが反応してくれるのをじっと待つ」(当時の状況を知る幹部)だけだったのである。