シャープは2月27日、「AQUOS サウンドパートナー」シリーズの新モデル「AN-SX7」を発表した。2018年11月発売の「AN-SS1」に続く“肩掛け型スピーカー”の最新製品だ。発売は3月16日。価格はオープンプライスで、店頭での販売価格は3万円程度になる見込みだ。

AQUOS

 また、AN-SS1についても、新カラー2色を追加する。女性層を意識し、ファッション性の高いミントグリーンと、ローズゴールドを選んだ。発売は4月20日。実売価格は1万4000円程度になる見込みだ。

AQUOS
AQUOS

ながら派だけでなく、没入派にも向けた新製品が登場

 「ウェアラブル・ネックスピーカー」などとも呼ばれる首掛け型スピーカーは、ヘッドホンとは異なり、肩の付近に乗せたスピーカーから音を出す新しいカテゴリーの製品だ。装着性方法や機能は、ネックバンド型のBluetoothイヤホンに似ているが、耳を塞がずに使う。遮音性はないが、音の自然な広がりを感じられる点が特徴的だ。昨年はボーズやソニーの製品が好評を博し、さまざまなメーカーが製品を投入した。選択肢が急速に増え、盛り上がりを見せ始めたカテゴリーとも言える。

AQUOS

 シャープは、2018年度中にこの市場が前年度比約7倍に拡大し、10万台規模の販売数に達すると予測している。ユーザーニーズは、使い勝手重視の「ながら派」と音質重視の「没入派」と二極化していると結論付け、それぞれに合った製品の開発を進めてきた。

 「ながら派」に向けたのが、既存製品のAN-SS1。製品の購入層は、新技術に関心の高い男性が7割程度を占め、50代以上が過半数を占める。耳の聴こえが悪くなり、テレビの声が聴きとりにくくなった人なども関心を示している。約88gと軽量な本体は「着け心地がいい」といった評価を受けている一方で、「音質向上」や「大音量化」、「防水対応」を要望として挙げる声もあった。

 シャープではこうした声に耳を傾け、機能を改善するとともに、カラーバリエーションなども強化し、女性や若者への訴求も進めていく考えだ。

テレビの音を高音質・低遅延のaptXで飛ばせる

 新製品のAN-SX7は、AN-SS1とは異なる「没入派」を狙った製品だ。低域再生と連動した「振動機能」を備え、さまざまな事情で大きな音が出せない室内でも「臨場感」を感じ、「耳元の大音量」で映画や音楽を楽しめる製品として訴求していく。

 一方でサイズは大型化して幅227×奥行き181×高さ46mm、重量も約280gに増えた。しかし太めのネックバンドなどを使い、装着性は維持している。柔軟性が高いエラストマー素材を使用し、肩にフィットしやすいため、長時間の使用でも疲労感が少ないとする。

AQUOS
音量調整やミュート用のボタン。会話などをしやすくするため、ワンタッチで音を止められる。
AQUOS
Bluetoothに対応。充電はMicro-USB経由でする。

 AN-SS1はBluetooth標準コーデックのSBCに加え、低遅延技術のFastStreamを組み合わせていた。一方AN-SX7では、対応するBluetoothコーデックが増え、SBC、AAC、そして高音質・低遅延のaptX、aptX LowLatencyの利用も可能となった。本体の充電にはMicro-USB端子を使用。5時間の充電で、最大13.5時間の連続再生が可能だ。

AQUOS
内部を説明するためにカバーを取り外した展示。

 製品パッケージには、テレビやゲーム機との接続を想定した「Bluetooth送信機」を同梱する。サイズは60mm角で、厚さは22mmほど。3.5mmのアナログ入力端子に加え、角形の光デジタル入力端子も備える。ちなみに、AN-SS1付属のBluetooth送信機は、PC接続を想定したUSBドングル型だった。なお、ドルビーデジタルなどのデコーダーは内蔵せず、入力信号は2chのPCMのみに対応する。そのため、プレーヤーやテレビで一度変換した信号を入力する必要がある。

AQUOS
Bluetooth送信機

 1台のテレビで再生した映像の音をふたりで聴ける、「デュアルストリーミング機能」にも引き続き対応する。接続時のコーデックは1対1の接続の場合は、aptX LowLatency。1台の送信機に対し、2台のAN-SX7を接続した際は、aptXに固定されるという。

 マイクも内蔵しており、スマートフォンに接続した場合は、音声通話に加え、Googleアシスタント/Siriの操作ができる。液晶テレビのAQUOSはAndroidベースとなっており、テレビの音声操作も期待したいところだが、現状では利用できない。今後の検討課題だという。

振動機能は5年越しで実現、蛇腹を使った独自の仕組み

 振動機能の「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」は“蛇腹振動”を使った、独自の方法で実現している。フルレンジドライバーの後方に、蛇腹状にしたゴム製パーツがある。ここにバスレフダクトの役割を果たすチューブが通してあり、チューブを伝って増強された低音の振動に連動する形で、蛇腹が物理的に伸び縮みする仕組みだ。蛇腹の中心付近には重りが置いてあり、60Hz付近の周波数が再生された際に最も震える設計にしている。

AQUOS
本体裏面の波紋上の部分を中心に振動する。
AQUOS
ACOUSTIC VIBRATION SYSTEMの解説

 技術を担当した蓑田英徳氏は、2013年ごろから首掛け型スピーカーの開発に着手。もともとテレビの音響設計を手掛けてきたが、その合間を縫って、研究(試作)を進めた。当時は「人にマネされる商品」を作り、「シャープの遺伝子」を復活させるという号令が全社にかかっていた時期でもあり、その想いに応えたいという意気込みがあった。

AQUOS

 開発当初は、小型でも豊かな低域を出すため、教科書通りのバスレフ設計としたが、その後、パッシブラジエーター型や骨伝導型など、様々な技術を検討した。試行錯誤の結果、2016年に「蛇腹振動とバスレフの組み合わせ」が有効であると気付き、本格的な開発に進んだ。無線化といった付加機能も付け、2017年後半に現在の方向性が確立。その後もいくつかのブラッシュアップを重ね、製品化にこぎつけた。

AQUOS
開発の歴史をプロトタイプとともに紹介

 すでに述べたように、AN-SS1は低音増強にダクトを使用し、振動に特化したユニットを別途追加しているのが特徴だ。他社の首掛け型スピーカーでは、パッシブラジエータを使用して振動を実現している例もある。しかし、パッシブラジエーターを使って、より多くの低音を出そうとすると、振動もそれに伴って増す。この不自然さをなくそうとした。

AQUOS
スピーカーは手前、蛇腹の振動ユニットは後方に用意している。
AQUOS
蛇腹部分を別の角度から

声の聴きやすさを重視した、ストレートで素直な再生音

 開発に際しては、無指向性のスピーカーを使い広がりあるサウンドを実現した「AQUOS 4K NEXT XG35ライン」の経験も生かせたとする。スピーカーユニットの位置をなるべく前方に置き、スピーカーのように音が前から聞こえるようにしているのも音響面の工夫だ。

AQUOS

 実際の音を聴くこともできた。感じたのは、前方のやや低い位置からテレビの声がハッキリと聞こえるという点。映画であればストーリーを追う上で一番大切な「セリフ」、ニュース番組やバラエティなら「出演者のコメント」を、まず聞き取りやすく伝えるのを重視しているのが分かる。

 サウンドモードは、ストレートな再現の「標準」、映画やゲームに適した「ダイナミック」、人の声が聴きやすい「ボイス」の3種類がある。バーチャルサラウンド機能などはあえて使用せず、低域の量などを調整するイコライジング処理のみの調整だ。ここは姿勢が変わっても音色が変わらないようにしたいという意図もあるという。

AQUOS
音質や構造面での特徴
AQUOS
各モードの周波数特性

 そのためか、音はステレオ的な表現となる。一方で、サラウンド感は控えめで、左右や後方への音の広がりや、音の動きなどはあまり感じない。演出を極力なくした、あくまでストレートな再生音を目指している印象だった。

振動の臨場感は、ライブ映像と特に相性がいい

 振動ユニットはちょうど鎖骨の付近にある。

 映画・ゲーム・音楽など体験したが、一番マッチするのは、音楽コンテンツだろう。特にライブ映像との相性が非常にいい。ベースが刻むビートや、会場に鳴り響くクラップ音などと連動して本体が震え、実際のライブ会場が揺れているような臨場感が味わえる。ライブ会場ではステージの位置は変わらず、常に音が前から鳴っているので、音の動きはあまり重要ではない。ここも声の聞きやすさを重視し、前方に近い位置で定位するこの機種と合っている。自分が観衆の一部になったような気分が味わえた。

 アクション映画などでは、映像の迫力を増すためズーンと低域を鳴らす演出や爆発音などと連動して本体が震える。とはいえここは、音の広がりも重要なところ。映画では、サラウンド再生を前提とした音の演出が加えられている場合が多いので、前方中心に音が鳴る本機ではやや物足りなさも感じた。とはいえ、セリフなどはよく聞こえ、表現としても自然だ。家族が寝てしまい、大きな音量を出せない夜間などに、テレビスピーカーの代用として使うのであれば十分なメリットがある。

 首掛け型スピーカーの特徴は、ヘッドホン再生のような窮屈さがない点だ。真横から音が鳴るヘッドホンでは、声が頭の中で定位する。ここが再生の不自然さや長時間使った際の疲れにつながりやすい。首掛け型スピーカーであれば、音量を少し下げて周囲の音を聞くことができるし、振動による演出の効果も手伝って、スピーカーともまた違った感覚が味わえる。ワイヤレスなので、ちょっとコーヒーを入れるために立つなど、部屋の中を移動しながら使うこともできる。まだ、新しく発展途上のカテゴリーだが、テレビ+αの映像体験を得られる点で、興味深いものと言える。