アユートは3月8日、Ultrasoneの新イヤホン「SAPHIER」の国内販売を4月に開始すると発表した。静電型ドライバ―とバランスド・アーマチュア(BA)型ドライバ―を複数使ったハイブリッド構成のイヤホンで、技術的にも意欲的なチャレンジをしている製品だ。

SAPHIRE
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 Ultrasonのラインアップは現状ではヘッドホンが中心。フラッグシップのEditionシリーズを筆頭に、スタジオエンジニアやDJなどのヘビーユースに耐えるSignatureシリーズ、プロユースを意識したPROシリーズなどを展開している。

 イヤホンについては、2012年にブランド初のイヤホンとなる「IQ」を発表したことがある。当時はまだ珍しかったバランスド・アーマチュア(BA)型+ダイナミック型のハイブリッド構成を採用して高評価を得た。しかし、2013年のPyco以降は新製品がなく、ハイエンド向けイヤホンに至っては系譜が途絶えていた。

試行錯誤の末、珍しい静電型とBA型のハイブリッド構成に

 そして、登場したのがSAPHIREだ。市場にはまだ少ない静電型ドライバーを使って、プレミアムイヤホン市場にカムバックするという課題に取り組んだ。様々な種類の音をイヤホンで再現するために何が必要かを考え、ドライバー構成を吟味したという。

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鏡面加工したフェイスプレートにUltrasoneのロゴをあしらっている。シリアル番号は本体には記載されていないが、海外向けでは、別途金属製のシリアル番号入りプレートが付くようだ(国内では未定)。

 音質の良さが特徴なのはもちろんだが、使い勝手の良さにも注目したい。

 静電型イヤホンは仕組み上、高い電圧を供給して駆動する必要があり、専用アンプと組み合わせるのが必須となっている。つまり、音質以前に持ち運びやケーブルの取り回しといった面での不便さがあるのだ。しかし最近になって、イヤホンの筐体にも収納できる小型のトランスを組み合わせ、携帯プレーヤーの出力でも駆動できるユニットが出てきた。ここが技術的なブレークスルーになった。

プレーヤーにそのまま差して使える簡単さ

 SAPHIREは4ウェイ6ドライバー構成。うち4基がBA型ユニットで、低域を2基、中域を1基、高域を1基が担当する。静電型ユニットは2基使い、超高域を担当する。静電型ドライバーの振動板は6μgと超軽量で、表面にゴールドコーティングが施されている。内蔵トランスは16μmと極細のワイヤーを1万5000回巻いたもので、通常のヘッドホン出力から入力した信号を昇圧して約100倍の電力にできる。

 そのため、静電型ユニットを使ったイヤホンでありながら、アンプの追加は不要だ。普通のイヤホンと同様にプレーヤーの端子に直接差して利用できる。

 開発の検討段階では、ダイナミック型ドライバーと組み合わせたり、スーパーツィーター以外の役割を持たせるといった試みもあった。結果、マルチBA+静電型×2のスーパーツィーターを使うのが最適解だと結論付けたという。音質面での狙いは「Edition 15」などとも共通する自然さと緻密さの再現。さらにイヤホンでもヘッドホン並みの音の広さや力強さを表現することを目指した。

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4ウェイだが導管は3つ。穴の大きさは揃っている。

 各ドライバーが再生する帯域を分けるネットワーク回路はイギリス製だという。クロスオーバーの数値は公表されていないが、可聴域の一部を静電型ユニットが担っているという話もあった。

 マルチドライバーのイヤホンでは、8Ω以下とかなり低いインピーダンスの製品も存在するが、SAPHIREの場合は25Ωと一般的な範囲に収まっている。インピーダンスが低いイヤホンは音色変化が出やすく、アンプの性能も求められるが、鳴らしやすさという意味でも問題のないイヤホンに仕上げている。

 本体には2ピン端子を備え、リケーブルが可能。一般的な3.5mmミニジャックと、バランス駆動用の2.5mm4極端子の2種類のケーブルを同梱する。本体重量は約15g(ケーブル含まず)。周波数特性は10Hz~50kHz。SpinFitのCP145と、ComplyのTX-400という2種類のイヤーチップに加え、革製のハードキャリングケース、クリーニングクロス、クリーニングツールなどが付属する。

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付属品の一覧
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コンプライの低反発タイプと、スピンフィットのシリコンタイプの2種類を用意している。
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3.5mm端子のケーブルはツイストタイプでジャックはストレート形状、2.5mm端子のケーブルはビニール皮膜でジャックはL字形状となり、外観上はかなり異なる。とはいえ、線材はOFC線で基本的に同じだという。3.5mmの方は銀コートしているのがわかる。

 アルミ製の筐体は、アルマイト処理でブルーに塗装されているが、これは2016年から限定販売された「Tribute 7」と同じ素材(航空機グレードのアルミ合金)とカラーリングだ。Tribute 7は2004年に発売し、ハイエンドヘッドホンという新しい市場を作った、Ultrasoneの出世作「Edition 7」を現代の素材と技術で復刻するというコンセプトで作られた製品だ。

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一般的なIEMスタイルの機種とはケーブルの取り付け向きが違うのだが、装着感は自然だった。

日本のユーザーに感謝し、応えていきたい

 発表会にはUltrasoneのCEO Michael Willberg(マイケル・ウィルバーグ)氏も来日。15年前に発売し、ブランドの礎を築いたEdition 7と同様に、イヤホンマーケットを変えるようなハイグレードな製品を投入したいという気持ちで誕生したのがSAPHIREであるという主旨の説明をした。

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Michael Willberg氏。手にしているのは同時発表されたEdition 15 VeritasとSAPHIRE

 発表会では密閉型ヘッドホンの「Edition 15 Veritas」と「SAPHIRE」が同時に紹介された。ともに同社の最上位モデルとなり、直販価格も同じだ。

 Ultrasoneは1991年の創業だが、Edition 7によって高級ヘッドホン市場でスタートアップ的な成功を収めた。日本においても前代理店のタイムロードとの17年におよぶ関係を通じて、高級ヘッドホンの代名詞的なブランドと認識されている。日本のハイエンドユーザーからの暖かい支援には常に感謝しているという。

 国内の販売代理店がタイムロードからアユートに変わってからの最初の製品となる。発表会の冒頭でもアユート取締役の渡辺慎一氏から「タイムロードが作った伝統を踏襲しつつも、われわれなりの良さを訴求していきたい」というコメントがあった。

 価格はオープンプライスで、アユートの直販サイト「アキハバラ e市場」での価格は39万9980円。発売日の詳細は後日発表するとしている。

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ハードケースの中はモコモコだ。

 SAPHIREは、メイド・イン・ドイツのハンドメイド生産となるが、その組み立ては日本人女性が1名で担当している。製造は半年ほど前から始めているが、繊細な作業が必要であるため、月産台数は50台ほどと非常に限られているそうだ。当初は品薄も予想されるので手に入れたい人は早めに予約することをお勧めする。

少し音を聴いてみた

 音については素晴らしいのひとことだ。Astell&Kernの「A&ultima SP1000」と組み合わせて聴いてみたが、しっかりクッキリとした再現であると同時に、透明感や適度な温度感を兼ね備えている。そう感じる理由は中低域の再現が充実しているためだろう。

 同じタイミングで「Edition 15 Veritas」の音も聴けたが、サイズも方式もまったく違うのに傾向がとてもよく似ている。Ultrasoneとして一貫した、音作りの方向性があるのが伝わってくるし、クオリティ面でも引けを取らない。さらに付け加えるなら、大口径ドライバーを採用したヘッドホンに匹敵するスケール感や開放感があり、イヤホン再生であるのを忘れてしまうほどだ。

 一切の歪みがない高域が、どこまでも伸びていく感覚は静電型特有なのだが、無味乾燥な感じにならないのは、BA型ドライバーを組み合わせているためだろう。コンデンサー型は非常にフラットな特性が得られるが、振幅が確保できないので力感が得にくい側面もある。この弱点をBA型ドライバーを組み合わせることで、見事に解決している感じがした。

 音調は市場にあるマルチBA機とも異なる、ナチュラル感を伴っている。感心したのは、ユリア・フィッシャーが弾く『チャイコフスキー:バイオリン協奏曲』(DSD盤)。バイオリンソロとオーケストラが掛け合う場面で、オーケストラの演奏が少し距離感と広がりを持ってぶわっと広がってくる。スケールの対比が見事だし、ダイナミックスの広さを感じる。

 また、教会で収録した合唱曲の「MAGNIFICAT」では、声の滑らかさに加え、ごく小さな残響まで繊細に再現する。このあたりはスーパーツィーターの追加が利いている部分ではないか。そうかと思えば、アニソンの「Adrenalinne!!!」では、パンチの利いたビートをメリハリよく再現して、ベースからボーカルまですべてがハッキリ・クッキリ……という感じで、ソースを選ばない。印象的なのはこれらの曲がすべて、音ではなく音楽としての流れを兼ね備えている点だ。

 手持ちのコンデンサー型イヤホン「KSE1500」とは対照的だ(方式も若干異なる)。情報量の豊富さという意味では非常に優秀なKSE1500だが、モニターライクで音楽というよりも音を聴いている感覚になる(これもスタジオ収録の楽曲であればいいのだが)。これに対してSAPHIREは曲の表情が音楽としてすっと耳に入ってくる。

 BA型を組み合わせることによるトーンバランスの違いもあるだろうが、それ以上にリスニング向けの機種として、音の強弱や前後のつながりなどが意識される。そのため、音の善し悪しをチェックする気持ちを忘れ、ついつい演奏や表現の善し悪しのほうに関心が移ってしまう。そして試聴が終われば、脳のシワがより深く刻み込まれたようなスッキリとした気持ちに……。

 数十万円クラスのイヤホンはすでに珍しくなくなってきているが、SAPHIREのような音はSAPHIREにしか出せないというのが感想だ。その価格も含めて、本当にすごいイヤホンが登場したものだと思う。