gafa

 日本では「GAFA」というキーワードが流行っています。Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字をとって「ガーファ」と発音するこの言葉は、デジタルの世界を支配する巨大プラットフォーマーに対して、若干ネガティブな意味を込めて束ねているわけです。

 ただ、米国にいると、どうもこの「GAFA」というくくりにピンと来ません。ウォール街にはテック株を束ねて「FAANG」という言葉はあります。GAFAにNetflixを加えていますが、Netflixがそこまで影響力を発揮しない日本だと、むしろFAANGの方がピンと来ないかもしれませんね。

 さて、GAFAに対しては「我々の生活に欠かせなくなったテクノロジーを支配しており、あらゆる面で影響力を発揮している」という実際に即した評価が下されています。確かにiPhoneやAndroidスマートフォンなしの生活はもはや想像しにくいですし、友人とつながるツールとしてのFacebookは仕事での活用も目立ちます。Amazonがなかったら、我々はいつ買い物をするのでしょうか。

 GAFAなしの世界に戻る、つまり再びモバイル以前の生活に戻れば良いじゃないか、GAFA支配と不便さを天秤にかければいいと思われるかもしれません。ただし、既に世の中そのものが変わってしまって、後戻りはできません。たとえばスマートフォンなしでも生活はできますが、出先で連絡を取ろうとすると、すでに公衆電話の数は激減してしまっています。Amazonの代わりに商店街の専門店で買い物しようとしても、そこに店は既にないのです。

 人々はGAFAの製品やサービスを消費し、彼らにデータを預けてAIの成長に強制的に協力させられながら生活しなければならない。ディストピアとまでは言いませんが、テクノロジーに対してそんなイメージを持ちながら逃れられなくなっている状況は存在しています。

●アップルはプライバシーもデザインする

 1984年、今から35年前にアメフトの一大イベント、スーパーボウルのコマーシャルで、アップルは初代Macintoshのコマーシャルを流しました。PC支配のディストピアから人々を解放するオルタナティブとしてMacを登場させ、マウス操作を主とするコンピュータをもたらしました。

 アップルはプライバシー問題の解決をデザインすることで、ふたたびGAFAの支配から人々を解放するオルタナティブを提案しようとしているかもしれません。その点で、アップルは「GAFA」から離脱し、「GAF」を取り残そうとしていると見ることもできます。

 アップルは昨年Facebookのユーザーデータ8700万人分が流用されたCambridge Analyticaのスキャンダルの際、ユーザーデータを使ったビジネスをする同社に対して厳しい批判をしてきました。プライバシーは基本的な人権であり、これを脅かすなら規制も辞さないと、ティム・クックCEOは意見を述べることもしばしばあります。

 アップルはそうした姿勢だけでなく、いくつかの方針を持ってこれらの話題に取り組んでいるそうです。

・最小限の個人データ収集
・デバイス上の処理
・透明性とコントロール
・セキュリティ

 この方針は、アップルのプライバシーを専門とする法務チームと、プライバシーやセキュリティを担当するエンジニアが構築し、彼らが製品やサービスのチームと広範な議論をしながら最善策を採っていきます。そう聞くと、エンジニアの暴走を法務チームが止める、という構図が思い浮かびますが、実際そうではない部分もあるそうです。

 たとえば、匿名化したユーザーの個人データを集める際、「タイムスタンプと場所を取得することは合法的だ」と法務チームが判断したそうです。しかしエンジニアチームは、「それらデータを扱う上で必要ない」あるいは「それは良くない」と判断し、集めない仕様になりました。エンジニアサイドにもプライバシーの意識が強いことを物語るエピソードといえます。

●ログインしないサービスの秘密

 アップルは個人情報を収集する際、青い2人の人が握手をしているアイコンを必ず掲出します。そこでユーザーの選択を提示するわけではなく、何が起きるかを明示して、ユーザーにプライバシーを啓蒙することを目指しているそうです。

 iPhone向けアプリでは、たとえばWebブラウザーSafariのように、ログインを必要としないサービスがそろっています。地図や写真、そしてパーソナルアシスタントのSiriも、ログインせずに使い始められます。これらのアプリを使い始める前に、先述の「プライバシー啓蒙アイコン」は登場しません。

 つまり、これらのアプリを使う限りにおいては、ユーザーの個人情報に紐づくデータがアップルに送信されないことをあらわしています。しかし、Siriやマップは、次の予定までの経路をワンタップで調べてくれますし、写真アプリは自動的に写真をまとめ、テキストで検索できるようにしてくれます。

 こうした機能を実現するため、アップルでは、極力iPhoneの中でデータを処理するようハードウェアとソフトウェアを設計しているそうです。

 一方グーグルは、あらゆるアプリでGoogleアカウントにログインさせて、サーバー側の処理を強めています。地図や写真など、両社が同じカテゴリで配信しているアプリは似たようなことができますが、プライバシー上の設計はまったく異なっていました。

●iPhone 3GSからの取り組み

 アップルは個人の情報をできるだけiPhoneから出さずに処理する方針をとっています。iPhone Xからニューラルエンジンを搭載し、個人情報を大量に使用する機械学習もiPhoneの中でできるようにしました。

 しかし、デバイス内で処理しようという方針は、実は2009年発売のiPhone 3GSから始まっていたそうです。ハードウェアで情報を暗号化するためにはどうすれば良いかというアプローチからスタートしており、2010年のiPhone 4で搭載するチップを自社設計に変更してから、取り組みは加速します。

 アップルのソフトウェアエンジニアはシリコンチップのチームと連携し、目的特化型ハードウェアを盛り込むようにすることで、デバイス内の処理の比率を増やしても、バッテリー持続時間に影響しないよう配慮するようになりました。

 アップルはスティーブ・ジョブズ時代からプライバシーに関して取り組んでいます。問題が大きくなった昨今に始まったことではありません。そのためアップルは「GAFAと束ねられることは本望ではない」という意思表示を始めているのでしょう。


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筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

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Twitterアカウント @taromatsumura