私も中学硬式野球の監督時代、試合後に本部席へ行き、審判団に説明を求めた経験がある。ところが、本部席や審判を訪ねた時点で「文句を言いに来た」と受け取られ、完全拒否の姿勢を貫かれた。

「抗議ではありません。もう試合は終わったのだから、結果が覆らないのはわかっている。だからこそ、説明を求めに来た。監督がルールの運用を理解していなければ、次の試合に向けて選手にどう指導していいかわからない」

 そう主張したが、「抗議は一切受けない」の一点張りで、私に「要注意」のレッテルが貼られただけだった。ラグビー取材の経験があったため、ごく当然のように説明を求めたのだったが、野球界ではこれがまったく通用しない。次のような新聞報道が、報じる側にも、お上の側から物を見る基本姿勢を表している。

『前代未聞の怒鳴り込みだ。2回戦で習志野(千葉)が星稜(石川)に3―1で競り勝ち、初の8強入り。今大会No.1右腕・奥川恭伸投手(3年)の攻略に成功したが、敗れた星稜の林和成監督(43)は習志野のサイン盗みを疑い、怒りを爆発。試合後に相手の控室に乗り込んで小林徹監督(56)に「フェアじゃない!」と直接抗議する異例の事態に発展した』(スポニチ 2019年3月29日)

 いまは罰則がないため野放しになっているとの批判・提言もある。まぎらわしい動きをした二塁走者に「アウト」を宣告すべしとの提言だ。しかし、懲罰主義も危険だ。この罰則を逆用され、9回裏一打同点の場面で、まぎらわしい動きをアウトにされたら、無実の攻撃側にはたまらない。まったくその意図や事実がなかったときに、その場で無実を証明する方法もないからだ。たとえビデオ判定を導入しても、なんらかの動作に疑惑を向けられたら否定のしようもない。

 それよりも、真のスポーツマンシップが全体に流れる高校野球に変えることこそ根本的だが、多くの指導者に「その気がない」現実が最も悲観すべき状況ではないだろうか。悪しき勝利至上主義を一掃するには、『球数制限』などの断片ではなく、大会の実施方法や根本的な価値観の見直しなど、大胆な高校野球改革が必要だ。「何食わぬ顔でルール破りをするのが当然。勝てば官軍、すべてが手に入る」、そんな人間を次々と育成する高校野球を放置していいはずがない。

 センチメンタルに溺れず、いまこそ高校野球への幻想を捨て、厳しく現実を見直す時期に来ていることを、今回の出来事は改めてあぶりだしてくれた。

(作家・スポーツライター 小林信也)