限られた時間をどう使うか。
2019年、「働き方改革」は組織のみならず、一個人にとっても大きなテーマ。
こうした中で、効率・効果的に仕事を進めるための
ビジネススキルである「段取り」が見直されています。
(段取りの有用性については、第1回の記事を参照ください)
上司や先生から「段取りが悪い!」と怒られるのに、
会社でも学校でも「段取り」を教えてくれる人は誰もいない――。
また、「段取り」という言葉のイメージから、
「自由な発想が奪われる」とか「クリエイターには不要だろう」
などと誤解されているのも事実。

そこで今回は、『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』の著者であり
「くまモン」でおなじみのクリエイティブディレクター・水野学さんと、
『ぼくらの仮説が世界をつくる』の著者であり
コルク代表の佐渡島庸平さんによる対談、
「クリエイターこそ『段取りが必要』」をお届けします。

※2019年1月銀座 蔦屋書店で行われたトークイベントを元に構成しています
<構成:須崎千春(WORDS)、和田史子(ダイヤモンド社)>

『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』の著者であり「くまモン」でおなじみのクリエイティブディレクター・水野学さんと、『ぼくらの仮説が世界をつくる』の著者でありコルク代表の佐渡島庸平さん『ぼくらの仮説が世界をつくる』の著者でありコルク代表の佐渡島庸平さん(左)と『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』の著者であり「くまモン」でおなじみのクリエイティブディレクター・水野学さん
(撮影/北澤太地、会場/銀座 蔦屋書店)

アイデアは天から降ってくるものではない

コルク代表の佐渡島庸平さん佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
株式会社コルク 代表取締役会長
2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。
著書に『ぼくらの仮説が世界をつくる』(ダイヤモンド社)『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』(幻冬舎)などがある。

佐渡島庸平(以下、佐渡島) 水野さんには、ぼくが起業したときに名刺を作っていただきました。

水野学(以下、水野) はい、コルク(佐渡島さんの会社の名前)の名刺ですね。

佐渡島 ぼくが起業したとき、ツイッターで起業したことを言ったら、普段はぜんぜんメールをしない水野さんから「名刺づくりは、俺だよな」というメールが来て(笑)。
「もちろんです!」ってお答えして、コルクの名刺を作っていただきました。

水野 そうでしたね。起業のお祝いを兼ねて……。

佐渡島 水野さんに名刺をプレゼントしてもらうとなると、おしゃれにデザインされたものをプレゼントしてもらえると思うじゃないですか。でも、水野さんのやり方はぜんぜん違いますもんね。

水野 ぜんぜん違う、というのは?

佐渡島 まず、水野さんは「コルクはどういう会社なんですか」と、ぼくに聞いたんです。
会社をつくるときって、「何をしよう」とか「どんな会社にしよう」など深く考えてはいなかったりするので、多少戸惑いました。
でも、水野さんがさまざまな角度から質問してくれたことで、ぼくの思考が深まったんです。水野さんがコンサルタントのように、ビジョン、ミッションを策定にしっかり付き合ってくれる感じだったんです。おかげでムチャクチャ研ぎ澄まされました。
そして、それを聞いたうえで、コルクのビジョン、ミッションを体現しているデザインを作ってくれるんです。
そうやってデザインされたものって、一瞬で説明できるじゃないですか。なので、会社がすごい軌道に乗りやすくなるんです。
「この名刺って実はグッドデザインカンパニーの水野さんにデザインしてもらっていて、RとKの角度が一緒なのは、作家と編集者が伴走してるイメージなんです」だとか。

CORK(コルク)のロゴマークCORK(コルク)のロゴ。社名は、ワインのコルクに由来している。

佐渡島 この書体やデザインに、全部コルクの理念が込められてるから、ロゴを説明するだけでコルクが説明できるようになっているんですよ。「1分でコルクが説明できる」みたいな、そういう練習をさせてくれるんです。起業したばっかりのときに「そんなありがたい話ない」と思っていましたね。

水野 そう言っていただくと、ぼくがいい人みたいに見えてありがたいんですけど(笑)、実際のところは、デザインってかんたんにはできないんですよね。ぼく自身「デザインしますよ」とかんたんに言ってしまうんですけど、いつも調べまくって、調べまくって、それでデザインしているんです。だからクライアントにも同様で、佐渡島さんに質問したことと同じようなことに「付き合ってもらっている」んです。そして付き合わせた結果が、デザインなんです。
付き合わせたのはぼくのほうなのに、佐渡島さんのように「うれしい」と思ってくれるとありがたいです。

佐渡島 水野さんの著書『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版)にも書いてありましたよね。結局、全部のデザインに理由が必要じゃないですか。その情報を集めないとデザイナーとして始まらないから、それがいちばんの「段取り」ですよね。その「理由を集める」っていうのが。

水野 そうですね。理由がないとデザインができないから。 「想像力豊か」とか「天からアイデアが降ってくる」とか、そんなの一回も、経験したことないですね。