デタラメの“女性問題”怪文書に
どう対処したか

 アメリカ駐在から帰国した私のポストは、日本電子の取締役国内営業担当でした。

 帰国して半年くらい経ったとき、本社のトップ(会長)から呼び出され、一通の封書を手渡されました。

 住所は書かれていませんでしたが、差出人は、聞いたこともないアメリカ人女性です。

 驚いたことに、封書には、こう書かれていました。

「近藤がアメリカで不貞を働いていた。
2年前、近藤が本社からの帰国の打診を断ったのは、女性問題がこじれて帰国できない事情があったからだ」

 会長は、いつもとは違う顔つきで、こう言いました。

「近藤君、事実はどうなんだ?」

 私は断固とした口調で、

「デタラメですよ。
誰がこんな細工をしてまで私を貶めようとするのでしょうかね?」

 と答えました。

 私は駐在中もセクハラ疑惑を持たれないように、アメリカ人、日本人を問わず、女性との打合せはガラス張りの会議室で行うか、複数で会うようにしていました。

 出張での行動予定も、妻には常に明確にしていました。
 なにより、私が帰国の打診を断ってアメリカに残ったのは、「ガンの治療」をしなければならなかったからです。

 私は会長にこう伝えました。

「この犯人は、内部にいますね。
 私が会長の打診を断ったことを知っているのは、役員か、あるいは一部の幹部だけです。
 おそらくこの人物は、アメリカに留学したことがあって、留学中に知り合った親しい女性にお金を払って書かせたのでしょう。
 たぶん、私と同年代でしょうね」

 会長は私を信じてくださり、この件は表面化することはなかったのですが、今度は、会長が誹謗中傷の対象となり、退陣を求める怪文書が本社工場内で見つかったのです。

 調査の結果、怪文書を作成した人物が特定されました。

 私の予想どおり、同年代の取締役でした。
同僚の私を蹴落とそうとしただけでなく、会社のトップにまで白羽の矢を立てていたのです。

 当然ながら、不法行為を実行したとして解任され、その後、怪文書事件は一切なくなり、日本電子も現社長の企業風土改善の取り組みのおかげで、今ではいい会社になりました。

 怪文書が出ると、「火のないところに煙は立たない」と言われ、第三者が信じてしまうこともあります。会社のトップは、社員のためにも身を慎まなければならないのです。