麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく新連載。第3回は、末席がアパレル企業のCFOに、デフレ下の戦略を伝授します。
今日も嶋野主任の気まぐれに…
窓越しに外を眺めると、皇居の上空を飛ぶ鳥が、風に大きく煽られている。
「今日はずいぶん強風だな。あれ…、もしかして…、しまった!」
マネジャーは思わず、ちっ、と舌打ちをした。
末席はそれを遠目に見ながら、今どき、本当に舌打ちする人っているんだな、と物珍しげにしていると、マネジャーが血相を変えてこちらに向かってくる。
「末席君、このあとの予定は何か入ってる?」
「ええ、所長とミーティングで、MBOの予定ですが」
「じゃあ、空いてるわけだな」
「あの、ですから、次期クオーターのMB…」
「大丈夫、大丈夫。MBOなら、所長と僕でやっておくから」
自分のMBOなのに、他人がやっておくなんてことがありうるのか。なんつー、強引な。驚いた末席は、ビックリした拍子に、目標管理シートをマネジャーに渡してしまった。*1
*1 MBOの概念は、ドラッカーの「Management By Objectives and Self-Control」という言葉にまでさかのぼり、自己統制のためにMBOというものが必要になるという主旨のことが語られている。cf. " The Practice of Management "(by Peter F. Drucker,1954)
「これを読んでもらって、所長がこの数字に、まあ20%くらい上乗せすれば完了だろう」
たしかに、すべてはシートに記入済みで、それ以外のものが特段に入る余地はない。実際、双方が目標数値調整でちょっともったいぶったあとに、「合意に至ったね、頑張ろうね」という“お約束”の儀式に多くの時間は費やされる。マネジャーが言っていることは、じつは、時間的な効率性を考えても合理的かもしれない。だが、しかし…。末席は、テーマパークの裏側を見てしまった子どものような、複雑な心境になった。
「ちょっと! せめて10%以内まで粘ってください。それはそれとして、マネジャー、なにか緊急のことでもあったんですか?」