お互いのことを知るために
一歩踏み込めるか

 その問題が起こったのは、起業して3年目のことだった。

 社内のエンジニアとビジネスのメンバーがうまく噛み合っておらず、事業の進み方にも影響を及ぼし、正直、マズい状況だった。そんなとき、たまたま鑑賞したアメリカ映画『タイタンズを忘れない』がきっかけで、解決の糸口が見えてきた。

 舞台は、高校のアメリカンフットボールチーム。白人と黒人の高校が合併したことで、すごく仲の悪い白人と黒人の混合チームができるのだが、スポーツを通して少しずつお互いにわかり合っていくというストーリーだ。

 肌の色が違うだけで真っ向から対立し、家族からも「あなたたち、黒人(あるいは白人)と話しちゃダメよ」といった教育を受けて育った人たちが、どうやって問題を乗り越えていくのか。信頼関係を築いて、チームワークをつくっていくのか。

 その過程と、結果的に生まれた彼らの強い結束に心を動かされた。そうした人種の問題ですら解けるのだから、僕たちが抱えている問題もきっと解けるよね。解けなきゃダメだよね。そう思えた。なぜか自信がついた。

 結論としては、「本当にお互いのことを知る」ことがいかに大切かに尽きる。当たり前でシンプルなことだけれど、意外とこれが自分の組織ではできていないことに気がついた。相手が本当は何を考えているのか――。そのことに対して当時対立していた2人のリーダーは、お互い突っ込もうとさえしていなかったのだ。

 コミュニケーション不足といえば、それまでかもしれない。ただ、普段何気なく行なっている大抵のコミュニケーションも、よほど意識して覚悟もして、一歩踏み込まないと、、お互いの境界線を広げるようなものにはならない。連載第4回「グーグルもやっていた「非効率なことに時間を使う」チームづくり」でも述べたとおり、いつも「今日の昼ごはんおいしいね」「寒いね」なんて会話ばかりしていても、お互いの境界線はなかなか広がらないのだ。

 小さい頃のコンプレックスやネガティブなフィードバックなんかも含めて、「聞いていいとはまだ思っていなかったこと」に対してちゃんと時間を使うなら、信頼関係は少しずつでも確実に高まっていく。でも当時、2人のリーダーはそこに踏み込もうとはしていなかったから、境界線を広げるための環境を少し整えることにした。