「いいね!」欲しさにのめり込むインスタやフェイスブック、「あと1回」が終わらないスマホゲーム、朝まで一気見してしまうネットフリックス、さらには頻繁すぎるメールチェック……。
現在、薬物やアルコールなどの物質への依存だけではなく、「行動」への依存も広がっている。この「新時代の依存症」を、心の仕組みと、私たちをのめり込ませる「依存症ビジネス」の仕掛けの両面から読み解き、さらにはその対処法まで示して世界中が絶賛した『僕らはそれに抵抗できない』が日本でも発売された。新時代の依存症「行動嗜癖」とはいかなるもので、なぜ危険なのか。核心部分ともいえるこの問いに答えたパートをプロローグからご紹介する。

新時代の依存症「行動嗜癖」とは何か

 何らかの悪癖を常習的に行う行為――これを「行動嗜癖(behavioral addiction)」という――は昔から存在していたが、ここ数十年で昔よりずっと広く、抵抗しづらくなり、しかもマイナーではなく極めてメジャーな現象になった。

 昨今のこうした依存症は物質の摂取を伴わない。体内に直接的に化学物質を取り込むわけではないのに、魅力的で、しかも巧妙に処方されているという点では、薬物と変わらない効果をもたらす。ギャンブルにのめりこんだり、何らかのスポーツを過剰にやりすぎたりするのは、そうした“新しい依存症”の中では古いほうだ。ドラマを一気に何話分も視聴せずにいられないビンジ・ウォッチングや、頻繁にスマートフォンを覗かずにいられないのは、より新しいほうの依存症と言える。いずれの場合も、人をのめりこませる力は昔よりもかなり強い。

 それと同時進行で、現代人は目標を設定することの利点にばかり焦点を合わせ、その欠点を考えようとせず、問題を悪化させてきた。確かに目標を決めればモチベーションもわくのだから、それが有効な方策だったことは否定しない。人間は勤勉で高潔で健全に生まれついてはいないので、隙あれば時間とエネルギーを出し惜しみしたがる。だが、その性癖を抑えて勤勉でいるための方策は、いつのまにか行きすぎてしまった。今の私たちは目標をいかに効率よく時短で達成するか、そのことばかりにこだわって、危機感を覚えて一時停止する能力を失っている

 私が話を聞いただけでも、決して少なくない数の臨床心理士が、この問題の根深さを口にしている。ある臨床心理士は、「私の患者の全員に、何か1つは行動嗜癖があります」と言った。「1つどころか、依存症の種類をすべて網羅している患者もいます。ギャンブル、買い物、ソーシャルメディア、メールなどなど」。高度な能力を要する職業につき、6桁の年収を稼ぎながらも、行動嗜癖でがんじがらめになっている患者も多いという。

「たとえばある女性は、外見にも知性にも恵まれていて、人生も順調です。博士号を2つ取得し、今は教師となっています。けれど実はネットショッピングの依存症。合計8万ドルも借金を抱えながら、自分が依存症であることを周囲に知られないようにしています」

 周囲に見せる自分と、依存行動におぼれる自分とをはっきり切り分けているのも、こうした患者の特徴だ。

「行動嗜癖を隠すのは簡単です――物質依存症に比べれば、とても容易に隠しおおせてしまう。だから危険なんです。気づかれずに何年もそのままになってしまいます」