星野リゾートの経営を深掘りする「星野リゾート 異端の経営」特集の第3回では人事制度を取り上げる。星野リゾートの経営を支えるのは、「星野のカルチャー」をたたき込まれた人材だ。400点満点という数字で社員を評価し、昇格は立候補制という独特の人事制度を探った。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)

10項目をそれぞれ40点満点で採点
同期と600万円の年収差も

 評価と給料を上げたければ、自ら動け――。

 東京・銀座にある星野リゾート東京オフィス。全国のスタッフが、同社の研修「麓村塾」を受講するために足を運ぶ場所だ。6月中旬に開催された、会議での発言の促進や合意形成をサポートする「ファシリテーション」講座には、北海道から沖縄県まで、約50人のスタッフが姿を見せた。

「今働いている施設で、一部のスタッフとの議論がうまくいかないという悩みがあり、スキルを身に付けたくて――」

 ある受講者は参加の目的をこう話す。ただ、多くのスタッフが全国から研修のために集まるのは、単にスキルアップが目的ではない。給料アップに直結するからである。

社内研修「麓村塾」の様子 Photo by Rumi Souma

 年200回ほど開催される麓村塾への参加は自由だ。階層も職能も関係なく、周囲から「行ってこい」と強制されることもない。休憩時間や有給休暇を利用し、自分に必要だと思う知識やスキルを習得するための研修という位置付けである。

 各地の施設でも一部の講座は開催されるが、マネジメントやマーケティング、サービスの知識やスキルの講座は東京オフィスでの開催だ。全国のスタッフに不公平が生じないよう、参加希望者は、必ず有休を取得でき、交通費は全額会社が負担してくれる。会社が負担する研修のための交通費は年間2000万円に上る。

 研修の講師は基本的に社内の人間だ。かつては代表の星野佳路がマーケティングを教えていた時期もあったという。

 東京オフィスで開かれる研修には、人事評価を上げるスキルを専門で教えている講座もある。

 星野リゾートの人事評価制度は明確な「点数制」だ。

 マネジメントやマーケティングなど10項目の評価基準を、1項目5段階評価で0点から40点で採点する。だから、社員には400点満点で点数が付く。

 点数は、自己評価をした上で、上司の同意を得て決定する。その評価を基に、基本給と年2回のボーナスの査定が行われる。そのため同期であっても、年収400万円と1000万円というような差が当たり前のようにつく。評価が下がれば、たとえ業績が良くても容赦なく減給されてしまう。

 星野リゾートの人材育成は、自己責任という考え方が根底にある。詳細は後述するが、総支配人やUD(ユニットディレクター)へのキャリアアップは立候補制。本人の裁量に任せている部分が大きい。

 そのため、社内でも一挙手一投足に気を使う。例えば総支配人は、自分の担当するホテルで、優秀な人材が働きたいと思ってもらえるよう、“社内営業”を欠かさない。人員配置は業績と社内評価に直結するからだ。「あの施設は働きにくい」といった口コミが広がれば、スタッフがそろわなくなる。施設の稼働率と業績が落ちれば、自身の評価も当然下がる。

 その分、経営情報はスタッフ全員に公開される。自らの立ち位置が分かって競争心が高まり、仕事熱心になる動機が生まれる、という理屈だ。

 青森県のホテル「青森屋」のねぶた祭りや、島根県の旅館「界 出雲」の神楽など、宿泊客向けのイベントは、情報共有から広がっていった。伝統芸能だが、手掛けるスタッフはほぼ素人だ。他の施設の成功事例を共有し、自身の評価に結び付く成果を追う中で、伝統芸能は星野リゾートの定番イベントになっていったのだ。

 個人個人が経営者の目線で数字を追うことで、業績が上がる。チェック機能や管理体制は極力最小限にする。これが星野リゾートの人事制度の考え方で、「セルフコントロールでクオリティーを維持しようとすることが最大の特徴だ」とグループ人事UDの小金井成子は言い切る。

 経営陣は何もしなくても、組織がもうかる施設をつくるように懸命になってくれることが理想の状態なのだ。