星野リゾート異端の経営vol.4

「星野リゾート 異端の経営」特集の4回目は、退職者に焦点を当てる。独特な社風と強固な組織は同社の強みである一方、それになじめず退職する社員も存在する。「ヤメ星野」の証言から、同社の課題を探る。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)

欲しいのはマルチタスクに染まる人材
ホテルマンは要らない

 決意を込めた自作の川柳で高らかに誓いを立て、「手形」を押す――。まるで“儀式”のようなこのイベントは星野リゾートの入社式「契りの会」でおなじみの光景だ。「顧客は友人、社員は家族」という星野リゾートの価値観を代表の星野佳路から伝えられた後、新入社員たちは「手形の契り」を交わす。

 同業他社からは「宗教だ」と皮肉られるほど、会社に熱烈な愛着心を持った一枚岩の社員たちが、星野の組織力を支えている。ただ、“星野教”に染まることができず、会社を去る社員もいる。「ヤメ星野」から見た星野リゾートはどんな企業なのか。

 「昔は『ホテルマンは取らない』、と経営陣は言っていましたね」

 そう振り返るのは、星野リゾートで旅館再生事業にも関わったことのある男性だ。

 通常のベンチャー企業ならば、スキルを持った即戦力の人材を採用しがちだ。しかし星野リゾートは、「マルチタスク」という独特のスキルを素直に身に付けてくれる人が欲しかった。そのため、ホテルマンを意識的に採用しなかったというのである。

 このため星野リゾートで磨いたスキルは、同業他社では通用しにくい。「同業からの転職者も少ないが、星野リゾートから同業他社に移るケースも少ない。どちらかというと、全く違う業界に進む人が多い」とホテル業界をよく知る人物は打ち明ける。その一方で、辞めた社員が出戻るケースも多いそうだ。

 また、入社時点で、将来星野リゾートを離職することを視野に入れた人も少なくない。

 「星のや富士」の総支配人である松野将至は、地方の大手ホテルの宴会係から、旅館経営を学ぶため星野リゾートに転職した。今年の入社式でも、「いずれ旅館を経営したいから」と同社に入社したことを公言している新入社員もいた。

 異業種で言えば、起業家を輩出する「リクルート」と近い存在になりつつあるといえるかもしれない。