GSOMIAは安全保障情報を第三国に漏えいさせないよう保護する枠組みで、締結国間で気兼ねなく情報交換できる「インテリジェンス(国家戦略上の重要情報)のインフラ」の一部だ。日韓間にGSOMIAがあることで、韓国は日本から主に北朝鮮から発射されるミサイルに係わる情報や電波傍受、衛星から得られる情報などの提供を受けてきたとみられる。もちろん韓国も日本に対し、朝鮮半島における北朝鮮の軍事情報などを提供していたとみられるが、より大きな利益を得てきたのは韓国だ。

 GSOMIA締結前の2006年7月、北朝鮮がテポドン2号などのミサイルを日本海に向けて相次いで発射した際、日本が収集した情報を迅速に得ることができず、対応を打ち出すのが遅れた。GSOMIAのない状況では、韓国が日本の持つ情報を入手するには米国を経由するのが通常だ。これでは情報収集とそれに続く対策決定のスピードが下がってしまう。

「何のために米韓同盟」
米国の信頼も損なう

 今回の破棄決定を受け、米国防総省でアジア政策を担当していた元高官は「今後、日韓間の情報交換は、かつてのように米国を媒介したやり方に戻る」と指摘している。日米韓の情報共有のあり方が後退することは、米国にとってもマイナスだ。GSOMIAは日韓間の枠組みにとどまらず、日米韓の協力関係を支える枠組みでもあるからだ。

 韓国政府は破棄を発表する際、「米韓同盟は維持されている」と強調した。だがこれは強弁だろう。確かに韓国は破棄の可能性を米国に伝えただろうが、米国がそれに対して理解を示したとはとうてい考えられない。米国にとって、日米韓の関係が良好でなければ北朝鮮への抑止力が減衰する。これまでも日韓関係が悪化する局面で、米国政府は繰り返し「日米韓の良好な関係が重要である」とメッセージを発してきた。1999年に日米韓協力の原型であるTCOG(日米韓による政策調整グループ)の成立に奔走したのも米国だった。

 ここまでのところ米国の政府や世論には、日本政府のホワイト国除外が関係悪化の引き金を引いたとして、韓国の肩を持つニュアンスがあった。だが今回韓国がGSOMIAを破棄し、3国間の協力体制に決定的なヒビを入れたことで、米国の韓国に対する信頼は大きく損なわれた。

 元々、安全保障的には米韓関係は決して良好ではなかった。米軍駐留経費の負担問題や、米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の返還(17年の米韓首脳会談で合意)といった米韓間の問題が続いてきた。この末に韓国がGSOMIAまで破棄して、北東アジアにおける米国の同盟ネットワークを傷つけるとなれば、「何のために米韓同盟は存在しているのか」「韓国は信頼できる同盟相手なのか」といった疑問が起こって当然だ。