どんな本を読むかは、その人の知性と感性を如実に表す。実利には直結しないが、教養として読む本は特にそうだ。テクノロジーで社会とビジネスが激変している現代、新しい教養として手を伸ばしたいのはSF小説である。
SFの父といえば『海底2万里』を書いたフランス人作家、ジュール・ヴェルヌ。英国人アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』は、時代を超えて読まれ続けている。とはいえ世界のSF論壇は長年、米国優位の状態が続いてきた。ウィリアム・ギブスン、カール・セーガン、ロバート・A・ハインラインといった米国人作家たちがきら星のように君臨してきた。
ところがその世界に今、大異変が起こっている。中国人作家、劉慈欣が2015年、長編小説『三体』で米ヒューゴー賞を獲得したのだ。ヒューゴーといえばSF界でもっとも名誉なアワード。日本を代表するハードSF(科学的知見に支えられた本格派SF)の大家、小松左京も獲得できなかった。中国人はもちろん、アジア人として初の快挙だ。翌16年にも、中国人女性作家の郝景芳が短編『折りたたみ北京』で受賞した。世界経済における形勢と同様に、SFの世界にも中国の風が爆速で吹き込んでいるのである。
この中国の風は、7月上旬にようやく日本にも到来した。『三体』の日本語版が刊行され、発売から1ヵ月で10万部を突破。翻訳SFとしては極めて異例のベストセラーとなっている。
言うまでもないが、SFは架空の物語である。しかしながら、そこには現実世界とのリンクがある。さらには事実を追うだけでは得られない、未来へのインサイトも含まれている。その意味でいえば、中国SFの台頭は現実世界のチャイナパワーとも深い関係があるのだ。
「SFなんて空想話。子供の読み物だ」と敬遠してきたビジネスパーソンも多いだろう。だが、激変する世界とテクノロジーを読み解くために、今日からその偏見は見直すのがよい。いまSFを読むべき理由のすべてを、全5回で届ける。
Chapter1
中国SF『三体』著者に独占ロングインタビュー
7月、日本でようやく刊行された中国SF『三体』。米オバマ前大統領が絶賛したといった前評判もあり、日本でも早々にベストセラー入りした。SF界の世界的寵児となった著者の劉慈欣を、記者が中国山西省の自宅まで追いかけて独占ロングインタビュー。彼の頭の中がまるっと分かるのは、ダイヤモンド編集部のこの記事だけ。
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