日本人は自ら進んで
未来の選択肢を狭めている

――戦略ではなく、外部環境に対する反応でしかないと。

 反応して、リスクを負わずに最大限の利潤を引き出すための最適値を出そうとしているだけ。でも僕が考えるに資本主義の原点は、そういうことじゃなかった。

 資本主義は、物をつくってお金に換えるプロセス自体が「面白かった」から成立したのだと思います。丹精込めて育てたナスが、手編みのザルと交換できただけじゃ駄目。野菜をお金に交換できたことでより高い満足感や達成感が得られて、人生がより拡張されるんです。これが資本主義が天下をとった最大の理由。僕はそう思っている。

――野菜とお金の本質的な違いは何ですか?

 金銭は抽象的でしょう。野菜のようなリアリズムじゃなくて、そこに抽象が入ってくるんです。だから人間により多くの選択肢をもたらすんです。

 言い換えると本来の資本主義は、人生の選択肢を増やす方向で始まっているはず。それなのに今は、逆に選択肢を減らす方向をみんな目指している。

 効率良く人生を生きるには学歴をつけて、いい会社に入って、お金を稼がなきゃって考えて、結果的にどんどん自分の選択肢を減らしているんです。もしかしたら学歴とか会社と全然関係がないところに、自分の人生を充実させる可能性があったのかもしれないのにね。

押井守
Photo by M.K.

 そして個人であれ企業であれ、失敗は最大のロスだと思っている。失敗したら回復不可能なダメージを負うと、思い込んで恐れている。だから企業は新しいことに挑戦しないし、若者も恋愛しない。でももしかしたらそのリスクを負うことで、新しい選択肢が爆発的に増えるかもしれないじゃん? 要するに、自分で自分の選択肢を減らしてきたんですよ。

 かつては「ものになるか分からないけれど、面白いからやってみようぜ」っていう企業が結構ありましたよね。創業者世代じゃなくなったからかな。大体どの分野でも創業者は面白いことをするんだけれど、トップが2代目、3代目になるとどんどん駄目になってくる。だから創業者が自分にとって一番面白いことを好き放題やらかして、さっさとアガリを決め込んじゃうのがいいんじゃない。

――そして誰もが創業者になりたいと思えば、うまくいくのかもしれない。

 つまるところ、「自分でジャンルをつくる」しかないんですよ。僕らの表現の世界なんて一番分かりやすい。誰もやっていないことやれば、放っておいてもナンバーワンになる。それが一番面白いことをやる方法でもあるんです。

 そして作っている過程が面白ければ、結果としてもだいたい面白い作品になるでしょう。『地獄の黙示録』みたいな、作っている過程が面白過ぎて、映画としてはまとまりようがなかった作品もありますがね。

おしい・まもる 1951年生まれ。東京都出身。大学卒業後、ラジオ番組制作会社等を経て、タツノコプロダクションに入社。主な作品に「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(1995年)、「イノセンス」(2004)「スカイクロラ」(08)など。最新著書に「押井守の人生のツボ」(押井守著、渡辺麻紀編集、発行:東京ニュース通信社、発売:徳間書店)