緩和ケアと聞くと、「末期がん患者が受けるもの」とイメージする人が多いだろう。しかし現在の緩和ケアは、「がんと診断された時から、すべての患者が医療機関や診療科を問わず、身体の痛みだけではなく、精神的なものも含めてトータルで受けられるもの」だ。さらに、緩和ケアの患者は今はがん患者が中心ではあるものの、がん以外の患者(非がん患者)においての緩和ケアの重要性も考えられるようになってきている。聖路加国際病院緩和ケア科部長の林章敏医師(「日本緩和医療学会」緩和医療専門医)に、緩和ケアを受けるためのプロセスや実際に緩和ケアではどのような治療が行われるのか、具体的な話を聞いた。(聞き手/ライター 羽根田真智)
緩和ケア医が患者の状態を知る
「問いかけ」とは?
――身体・精神双方のつらさに対応するのが緩和ケアとのことですが、身体の痛みなどは比較的伝えやすいものの、精神的なものとなると、難しいように思います。患者さんへの「問いかけ」など、どのようにされているのでしょうか?
聖路加国際病院緩和ケア科部長
日本緩和医療学会認定緩和医療専門医。1963年生まれ。1988年、宮崎医科大学医学部(現宮崎大学医学部)卒業。1989年、淀川キリスト教病院ホスピス医員、1995年、日本バプテスト病院ホスピス医長、1998年、同病院ホスピス長。マイケルソーベルハウス(英国・オックスフォード)のほか、Monash University(オーストラリア・メルボルン)で研修を受ける。2004年から聖路加国際病院緩和ケア科医長。2012年より現職。
患者さんには「困ったことはありませんか?」ではなく、「気がかりなことはありませんか?」と聞くようにしています。こうすると、身体のつらさだけではなく、患者さんが楽しみにされていることを聞ける場合もあり、それをきっかけに患者さんが求めていることにたどり着きやすくなるのです。
例えばあるがんの患者さんは、数ヵ月後に行われる娘さんの結婚式をとても楽しみにしていました。そして今気がかりなのは、体調を整えた状態で結婚式に出席できるかどうかだ、と話してくださいました。では、出席できるようにするにはどうすればいいか? 患者さんと一緒に考えていくことができます。
体調が比較的安定されていて、日常生活を送れているがん患者さんには、「最近、楽しみにされていることは何ですか?」または「日中はどうやって過ごされていますか?」などと聞くこともあります。「普段と変わらないよ」「いつも通り過ごしているよ」という返事であれば、良い状態なのだなと判断します。「近頃は横になってばかり」「家に引きこもっている」「出掛けたり、人と会ったりする気になれない」といった返事なら、「身体のどこかに悪いところがあるのではないか」「何らかのつらさがあるのではないか」など、患者さんが抱えている悩みを知るきっかけになります。