The Legend Interview不朽/東芝社長石坂泰三

 前回に続き、第一生命保険社長、東芝社長、経団連2代目会長などを歴任した石坂泰三(1886年6月3日~1975年3月6日)のインタビュー後編である。石坂は戦後間もない1950年に、2カ月余りの時間をかけて欧米を視察し、その目で見てきた海外経済の実態と、そこから導き出した日本の産業の課題について語っている。

 冒頭、訪米中に石坂は米GE(ゼネラル・エレクトリック)の社長室を使わせてもらい、「2週間ばかり非常に楽をした」と語っている。東芝とGEの関係の深さをうかがわせるエピソードだ。

 東芝(東京芝浦電気)は、1939年に「東京電気」と「芝浦製作所」が合併したことで誕生した。

 源流の一つである東京電気は、明治期の1890年に日本で初めて一般家庭向け白熱電球の生産を始めた白熱舎をルーツとする軽電メーカー。もう一方の芝浦製作所は、1895年に日本初の水車発電機を開発した重電メーカーである。

 両社の発展において、GEが果たした役割は大きい。東京電気は1905年、芝浦製作所は1909年に、GEと特許ライセンス協定を締結している。さらにGEの資本参加(東京電気は51.0%、芝浦製作所は24.8%)と、役員の派遣も受けている。いわば外資系企業の“はしり”だった。当然ながらその後の合併による現在の東芝誕生の際も、大株主であり、技術の“元締め”であるGEの意向が大きく働いていたことは間違いない。

 この資本・技術提携によって、東京電気も芝浦製作所もGEの特許を自由に使えるようになり、その特許を国内で申請していった。こうして、GEとの技術交流と技術移転によってライバルを退け、確固たる地位を築くに至ったのである。一方、当時のGEがどのくらい先を見据えていたかは定かでないが、極東の成長市場からライセンス料という不労所得を得続けることができるのだから、うまみは大きい。

 このインタビューの「」の中でも、石坂は「同社(GE)が戦前に東芝の株を持ったということは、東芝をコントロールして、東洋市場を自家薬籠中のものにする意図だったろう」と話している。

 終戦を迎え、戦後のGEとの関係がどうなっていくかは、産業界が大注目するところだった。当時の「ダイヤモンド」誌も、その点に興味津々だったようだ。結局、東芝とGEは戦前のような資本関係を築くことはなかったが、技術面での協力関係は続いた。

 東芝に限らず、戦時中は多くの企業が軍用技術にシフトしたせいで、戦後の民生用技術は米国からのライセンス導入に頼る部分が大きかった。記事中で石坂は「GEへの依頼心が強過ぎる」とか、「日本のエンジニアは大学の先生のような人たちが多い」などと苦言を呈している。今になって、日本企業は斬新な発想や独自技術によるイノベーションに乏しいといった評価をされることがあるが、元をたどれば、そんなところに原因があるのかもしれない。(敬称略)(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)

対日感情は各国とも上々
GEは社長室まで使わせてくれた

週刊ダイヤモンド1950年10月11日号・石坂泰三氏インタビュー記事1950年10月11日号より

──欧米を回られて、各国の対日感情はどうだったでしょう。講和会議も近づくとみられる際だけに、この点が気になりますが……。

 日本に対する感じは、各国とも非常に良かった。殊に西ドイツなどは、同じ立場にあったので、非常に同情的だったし、アメリカでもそうだった。

 僕がニューヨークを訪ねたときは、GE(ゼネラル・エレクトリック)のハロルド(・F・スミディ)社長がちょうど欧州へ行っていて留守だったので、僕にその社長室まで使わせてくれたほどだ。秘書付きでエアコンディションの立派な部屋で頑張り、紙が欲しいと言えば立派なものをくれる。電話も使うし、手紙を書いてくれと言えばパチパチ打ってくれるし、ちょうど2週間ばかり非常に楽をした。そればかりではない。日本人は貧乏していて、支払いに困るだろうと、GEがホテルまで取っておいてくれたし、会社への送り迎えまでしてくれた。

 僕はドレーパー(ウイリアム・ドレーパー・ジュニア陸軍次官:終戦後の対日占領政策を経済復興重視に切り替えた人物とされる)さんや、駐日大使をしたジョセフ・グルー(日米開戦時の駐日米国大使)さんにも会いましたが、そのときも立派な車を出してくれたので、汽車で行かずに済んだ。そのように非常に丁重に扱ってくれたので、僕も不自由しなかった。

 GEの副社長なども、「アンチ・トラストの訴訟でも済めば、君がまた来るか、君が来なければ、僕が行ってまた会おう」と言っていたし、そうした点から見ても、対日感情は良くなったと思いましたよ。

──戦前のGEが持っていた東芝の株はどうなるのでしょうか。

 戦前GEが持っていたのは、24%ばかりだったが、その後に増資を何回もやって、GEに割り当てていないために、今では2%ぐらいになっている。しかし、この点を向こうでは問題にして戦前の割合をよこせ、24%よこせと言っていたが、そうすると、その払い込みを誰がするかの難しい問題になってくる。僕は当然向こうが払うべきだと思うが、しかし、向こうにも言い分はある。当時1ドル幾らで投資したものが、相場が下がって近頃は大変な損をしておる。おまけに今までのロイヤルティーだって払っていないじゃないかという理屈も立つ。

 GEだとて、世界的な大会社だ。東芝の増資株を1株50円で払い込んでも、レートは360円だから屁でもないだろうが、そこには法律的な問題が絡んでくるので難しくなる。だが、GEが東芝に関心を持っていることは確かですよ。東京にも、GEから駐在員が1人来ているほどですからな……。