報酬疑惑で西川氏に退任迫った
幹部2人を排除方針
迷惑千万なのは新経営メンバーだろう。本来ならば、山内康裕CEO代行(63 歳)や新経営メンバーの3人が中核となって執行役員体制を決めるべきだ。新たなEC(エグゼクティブ・コミッティ。日産の最高意思決定機関)メンバーについても、執行役が選ぶのが望ましい。にもかかわらず、「日産取締役」というポストを最大限に活用して、院政を敷こうとしているのである。不正疑惑で失脚した経緯を踏まえれば、西川氏が人事に介在する資格などないはずなのに、だ。
複数の関係者によれば、まず、西川氏は山内CEO代行と川口均・執行役副社長を追い落とすことに闘志を燃やしているという。西川氏に、SAR(株価連動型インセンティブ受領権)と呼ばれる業績連動報酬の問題が発覚した時、西川氏の責任を追及した幹部だからだ。山内CEO代行に至っては、直接、西川氏に退任するよう迫ったが、西川氏は譲らなかった。西川氏は、自身を退任に追いやったのはこの2人であり、何としても両名を代表執行役・執行役の座から引きずり下ろそうとしているようだ。
実際に、西川氏の恨みは深い。退任時にイントラネットで流した社員へのメッセージには、「あらぬリークがあり、最終的に退任という形になりました」と最後まで悔しさを隠さなかった。
そして、西川氏による役員人事の介入を、積極的にアシストしている人物と、消極的にアシストしている人物がいる。
前者は豊田正和・取締役(指名委員会委員長。経済産業省出身)であり、後者はジャンドミニク・スナール・仏ルノー会長(日産取締役)である。この3人の取締役は思惑こそ違えども、取るべき足並みがぴったりと揃っている。
どういうことか。繰り返しになるが、西川氏の狙いは山内CEO代行と川口副社長の排除と、自身の息のかかった人物の登用である。
豊田氏の心中はもっと複雑だ。豊田氏は、日産の人事に関して、想定したシナリオをことごとく実現できずにいる。西川氏が解任された取締役会では、「すぐに辞めるべきではない」と意見したが、山内CEO代行の一言で流れが変わった。また、新経営メンバーを決める時には、豊田氏は関専務を推していたが、スナール会長の根回しで内田専務がCEOになった。
もはや、日産・ルノー問題は国益マターなので経産省の関心は高い。豊田氏は事ある度に古巣の経産省へ事前に日産情報を説明していたはずだが、その度にシナリオが狂い、元官僚としての面目は丸つぶれだ。そのシナリオを潰した山内CEO代行やスナール会長への反発が、西川氏のアシストへ向かわせているようなのだ。
そして、フランス政府がバックにいるスナール会長の狙いが、最もシンプルだ。日産との経営統合を進めるために、日産の上層部人事を御しやすい布陣へ誘導することである。
実は、西川氏が標的としている山内CEO代行と川口副社長は、ルノーとのアライアンスの将来について否定的な2人でもある。とりわけ、山内CEO代行は、ルノーと欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が統合交渉を始めた時に猛反発をしていた。スナール会長にとって、山内CEO代行は天敵なのだ。
結局、西川氏が暴走することで、最後にほくそ笑んでいるのがスナール会長だろう。なにせ、スナール会長が日産人事に対して本音を打ち明けるまでもなく、勝手に西川社長がルノーにとって“邪魔な人物”を排除していってくれているのだから。
スナール会長は公式の場では笑顔で正論を言うだけだ。「若返りで新しい風が必要だ」とでも言っておけば、経営陣の中では比較的高齢の山内・川口両氏を退任させる理由を作るなど容易なことだ。