ガバナンス改革は幻想
西川院政はゴーン統治と重複
西川氏、豊田氏、スナール会長との利害が一致したことで、日産の役員人事が実際に動きそうな雲行きである。
というのも、近いうちに日産の役員人事を議論するための、指名委員会と臨時取締役会が開催されるとの情報があるのだ(代表取締役、執行役の変更には指名委員会、取締役会の承認が必要)。解任された元CEOと、官僚崩れと、日産への支配力を強めるルノーの3者が、秘密裏に示し合わせて日産の役員人事を決めようなど、言語道断である。
考えてもみてほしい。そもそも日産は、カルロス・ゴーン前会長の不正問題を発端にして、ガバナンス改革を宣言した。ゴーン前会長に人事と報酬の権限が集中していたという反省に立ち、企業統治を抜本的に見直す目的で進めたのが、「指名委員会等設置会社」への移行だったはずだ。ゴーン時代に強すぎた「執行」を弱めて、社外取締役の権限を強めて「監督」した結果、少数の取締役による人事の暴走を許していては洒落にならない。
この1年足らずで日産が進めてきた「ガバナンス改革」は幻想だった。西川氏の私利私欲や私怨のために日産ポストに居座り続けて、かつ、人事権まで発動しようしているのは、正しく西川氏が攻撃したカルロス・ゴーン前社長と全く同じだ。ガバナンス改革が聞いて呆れる。
しかも、浅はかなことに、西川氏がスナール会長の術中に見事にハマっている。少なくとも、対ルノーで有利に交渉を進めるには、山内CEO代行を経営陣として温存した方が得策であることは火を見るよりも明らかだ。西川氏の暴走を許したままでは、日産とルノーとの交渉に影響を与えかねず、日本の自動車産業が守ってきた国益を失いかねない。
引導を渡した小枝氏が返り咲き
ひっそりと日産名誉顧問に就任
そして、西川氏が追い詰められていた証しなのだろう。今年9月、解任される直前に、西川氏はひっそりと小枝至・元日産共同会長(78歳)を日産の名誉顧問として迎え入れている。
実は、小枝氏は、ゴーン氏からの命を受けた西川氏が引導を渡して日産の名誉職からやっと退いてもらった人物。自分が首を切るのに苦労した人物を再び呼び寄せる心境は謎だが、西川氏も小枝氏も互いに、SAR不正疑惑では限りなく“グレー”に近い存在という共通点があり、ウマが合うのかもしれない。
ともかくも、小枝氏は西川氏の周囲にいる唯一の“応援団”であり、10月から日産財団理事長など日産の関係機関ポストを与えるつもりらしい。小枝氏が出社することはほぼないが、多少の報酬が支払われているという。
元はといえば、6月末に西川氏が報酬不正疑惑の責任をとり株主総会で職を辞していれば、ここまで経営が混乱することはなかった。自身の引責で辞めていれば、西川氏への批判も弱まったことだろう。繰り返しになるが、人事権を握ることで経営を掌握する西川氏のやり方は、経営末期のゴーン氏と一緒である。
もはや、西川前社長が今できることは、ただ一つ。速やかに後進に道を譲ることだ。