01巨大駅ラビリンスPhoto:MATJAZ SLANIC/gettyimages

渋谷駅で超高層複合施設が開業した。首都圏駅マエ商業施設売上高でツートップである新宿、池袋に劣る渋谷は下剋上を果たせるか。一方で三大都市の玄関口である東京、大阪、名古屋は「地下都市」化が進んでいる。東京駅周辺の地下歩行空間は最長4kmにも及ぶ。特集「駅・空港パワーランキング」(全11回)の#01は、迷宮化する巨大駅を追った。(ダイヤモンド編集部 松野友美、柳澤里佳、臼井真粧美)

渋谷駅一等地のヒカリエに
7年遊んだままの空間があった

 渋谷駅エリア再開発のヤマ場となる地上47階、地下7階の超高層複合ビル、渋谷スクランブルスクエア(第1期東棟)が11月に開業した。道を挟んでその隣に並ぶ複合ビルの渋谷ヒカリエには、4階部分にガランとした空間がある。

 家賃の高い駅前一等地なのに、開業した2012年から7年もの間、空間を遊ばせたまま。設計大手の日建設計で都市計画事業を統括し、03年から渋谷再開発に携わってきた大松敦取締役常務が特別の思いを寄せるのが、実はこの4階部分だ。

 ヒカリエの基本設計が始まった07年ごろは、スクランブルスクエアを含め駅街区開発の具体的な事業化見通しが確実ではない時期だった。最悪の場合はヒカリエが建ってから開発が中断する可能性もあった。それでも関係者たちは、いずれ4階は上空を歩く「空の道」につながると未来の渋谷に思いをはせた。

「設計当時から、駅周辺のビルを立体的につなぐ発想はあった。でも実現するかどうか100パーセントの確信はなかった」と大松取締役。それでもこの空間をつくって、4階が花開くときを待ち続けてきたのだ。

 大工事の末、東京メトロ銀座線の渋谷駅をヒカリエ側に移し、20年にはヒカリエの3階部分に改札口ができる。スクランブルスクエアも3階部分で銀座線やJR線につながる。東急東横線、東急田園都市線、東京メトロ半蔵門線、東京メトロ副都心線がある地下2階からこの3階部分まで、ヒカリエ同様に「アーバンコア」と呼ばれる駅やビルを縦に結ぶエスカレーターで昇ってこられる。

渋谷ヒカリエと渋谷スクランブルスクエア(写真上)再開発が進む渋谷。背の高いビルは右から渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア、渋谷ヒカリエ。(写真左下)ヒカリエの左向かいに建つビルがスクランブルスクエアで、2階は歩行通路、3階は銀座線につながる。4階には銀座線の屋上スペースを利用した通路ができる予定。(写真右下)エスカレーターが連なる渋谷ヒカリエのアーバンコア Photo:JIJI, Diamond

 ここまで再開発が進むと、ヒカリエの4階から銀座線ホームの屋上を歩いて北西にある渋谷マークシティまでつながる空の道が実現する段階に入る。渋谷駅は再開発によって縦に延びていき、地下、地上、さらに上空を往来する駅に変貌するのだ。

 渋谷再開発は2000年代初頭から四半世紀にわたって続くものだ。08年のリーマンショックなど幾度も難局に直面しながら、東急、JR東日本、東京メトロら複数の鉄道事業者や地元地権者の利害がぶつかりつつも折衝が繰り返された。彼らが手を組み、大きな開発を進めたのは、「危機感」を共有していたからだ。

 02年に新宿や池袋に通じる副都心線と東横線の相互直通運転の実施が決まった。渋谷駅の利便性を高め、どんどん便利になる他の駅に対抗するためではあるが、それまで東横線の始発駅や終点として利用された渋谷駅を素通りされる恐れがあった。便利になる半面、ジレンマを抱えながらの決断だった。