駅ナカ・駅マエの温泉は鉄道旅における飛び切り上等なスパイス。約500軒の日帰り温泉施設を訪れたライターの鈴木弘毅氏が全国から厳選した温泉10駅は、大枚をはたいてでも他では決して実現できないぜいたくを味わえる。特集「駅・空港パワーランキング」(全11回)の#02は、温泉でヒトを引き寄せる「駅ナカ駅マエ温泉」ランキングだ。(ライター 鈴木弘毅)
【1位】ほっとゆだ駅「ほっとゆだ」
泉質が素晴らしい! 浴室内に鉄道信号機
列車を降りて、すぐにひとっ風呂。そして、湯上がりの火照った体で列車に揺られて、夢見心地。駅ナカ温泉・駅マエ温泉は、鉄道旅行に飛び切り上等なスパイスを利かせる、究極のぜいたくだ。私が特に「幸せだなぁ」と感じるのは、湯上がりのポカポカとのぼせた状態で旅を続けられること。片手に缶ビールを持ち、もう片方の腕は窓枠に預けて、夢と現実のはざまをさまよいながら鉄道旅を楽しめる。これ以上のぜいたくが、他にあるだろうか。
そこで今回は、全国の駅ナカ温泉・駅マエ温泉の中から、私が特に気に入っている10の施設を、ランキング形式で紹介したい。ランキングの作成に当たっては、泉質や浴室内の設備はもちろんだが、景色・雰囲気・情感、休憩室や食事どころなどの付帯施設も評価項目に含め、さらには鉄道との親和性も加味している。温泉の余韻を丸ごと抱えて列車に乗り込める施設には、大枚をはたいてでも他では決して実現できないぜいたくがある。豪華でなくても、ぜいたく。それが、駅ナカ温泉・駅マエ温泉の最大の魅力なのだ。
栄えある第1位は、JR北上線から。施設名がそのまま駅名にもなっている駅ナカ温泉、川尻温泉「ほっとゆだ」(岩手県)。露天風呂やジャクージなどの設備はなく、「あつめ」「ふつう」「ぬるめ」の全身浴槽があるだけの素朴な施設だ。しかし、複雑な形状をした木造駅舎には山荘のような雰囲気があり、旅情をかき立ててくれる。
何といっても泉質が素晴らしい! 成分は濃いいのに癖がなく、毎日でも入りたくなる飽きのこない湯なのだ。浴室内には鉄に似た鉱物のにおいが立ち込め、木の香りと相まって癒やしの香りへと昇華する。
鉄道ファンの心をつかんで離さない演出もある。浴室内には列車の到着時間を知らせる鉄道信号機が設置されており、「信号が黄色に変わったから、そろそろ上がろうか」などと、旅路の先を思い浮かべながら湯を楽しめるのだ。
2階には、無料で利用できる休憩室を備えている。階下の売店で「銀河高原ビール」とおつまみを買って、湯上がりの一杯を楽しみながら列車の到着を待つのもいいだろう。ぜいたくの極みと旅情、そして鉄道との親和性の魅力に富む。