DXの推進は外注しても
「手の内化」できるか否かがカギに

 冒頭でも述べたように、DXの本質は変革にあります。SIerから提案された最近流行の技術を使ってみて、DXをやった気になっている企業もありますが、私は本当の変革には、ITの内製化が必要ではないかと考えています。

 しかし、外部パートナーにシステム開発を任せてきた企業が、いきなり100%内製化を目指すのは無理があります。また、テクノロジーを自社事業の主体とするテック企業であっても、よく見れば100%を内製化しているわけではありません。ソフトウェア企業、IT企業と言われる企業でも、自社ではできない部分を外部のパートナーに補完してもらったり、オープンソースを活用したりすることもあります。

 グーグルなどもオープンソースを活用していますが、このことは一種の外部パートナーへの委託、あるいは部品の調達に近いといえるでしょう。ただしこれは、日本の多くの企業がSIerへ委託するときに起こるような、「丸投げ」によるITのブラックボックス化とは違うものです。彼らがオープンソースを活用するときには、単にその成果を使うだけではなく、いざというときに自社のエンジニアを貢献させることで、自分たちがコントロールできるように主体性を持って取り組んでいるのです。

 DXで鍵となるのは、IT活用をこのように「手の内化」できているかどうかです。手の内化というのは、トヨタグループで使われている言葉です。自動車産業は典型的な、階層化された下請け構造を持ちますが、どこかへ製造を委託したものであっても、彼らはこれを手の内化して、1社に依存するのではなく主体的に製造に関わります。

 私の最近の著作『ソフトウェア・ファースト』では、「なぜ日本企業は、IT、ソフトウェアで手の内化をやらないのか」ということをテーマとして、IT活用を核とした事業の推進、変革についての考え方を紹介しています。

 IT、ソフトウェアの手の内化も、100%エンジニアを抱えて内製化するのではなく、自分たちで主体性を持って取り組んで主導権を持ち、戦略的に意思決定していくことを指しています。そのためにはソフトウェアのことを熟知している人が社内にいなければならないし、本当に自分たちで作らなければならない部分を内製化するための組織づくりも必要です。つまり、自分たちの事業で変革を求める時に何が要るのか、主体性を持って考えられる人が必要なのです。