新事業の企画段階では必ずしも
エンジニアはいなくてもよい
企業が手の内化、IT活用が進められているかどうかは、採用情報からも読み取ることができます。中途採用でエンジニアを積極的に採ろうとしている企業からは、DXによる変革を実現するために人と組織を変えようという意志が感じられます。
ただし、新しい事業を始めるときに、企画段階でエンジニアが必要かというと、必ずしもそうではありません。エムスリーのケースでは、新規事業のチームにはエンジニアを入れないそうです。「エンジニアが入っていると、すぐにプロダクトを作りたがるから」というのがその理由らしいですが、ポイントは「ソフトウェアを作ること」がゴールではなく、「事業が成功すること」がゴールだということです。最初からソフトウェアがなくても「この事業は行ける」となってから、アクセルを踏んでソフトウェアを作ればよいのです。
事業が成功するかどうかを見極める仮説検証の時点では、必ずしも全てソフトウェアを作る必要はなく、裏では人力でオペレーションを回していても十分判断できるものです。逆に「この技術を何に使おうか」と技術ありきで事業化を考えると、うまくいかないことは多々あります。
私が著作で書名にした「ソフトウェア・ファースト」というのとは矛盾しているようですが、ソフトウェア・ファーストとは「最初にソフトウェアを作りましょう」ということではありません。事業をスケールさせるときには、どこかでソフトウェアテクノロジーを有効に活用しない限り、スケールしないというフェーズにいずれ到達します。テクノロジーが全体に占める割合は1割程度という場合もあるかもしれませんが、それがどの部分で、いつ投入すればよいのかを、きちんと企画できなければいけない、ということなのです。
(クライスアンドカンパニー顧問・Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)