BtoCやネットで成功したモデルを
BtoBに持ち込んで成功した企業も
日本でのDX実践例としては、ネット印刷で知られるラクスルや専門家向けの医療情報サイトを運営するエムスリーが挙げられます。両社はいずれもコンサルタント出身で、その業界の事業を熟知した方が起業した会社です。これらの会社が行ったのは、コンシューマー向けでは当たり前となっているITサービスを、BtoBの業界で非効率のままになっていた部分に導入することでした。
企業は世の中のギャップを埋めることで成立しており、これは広告や検索の世界にもあてはまります。古くは、広告代理店が世間の隅々に情報を行き渡らせてギャップを埋めるために、マスメディアを押さえ、クリエイティブを用意して広告を打っていました。それをさらにインターネットで効率化し、コストを下げて民主化したのが、インターネット広告であり、検索サービスです。
エムスリーは、BtoCでは当たり前となっていたポータルサイトや検索を、情報が行き渡っていなかった医療の世界に持ち込みました。医療従事者をユーザーとして多数抱えることで、その基盤の上でビジネスが成立するようにしています。
ラクスルも同様に、非生産的だった印刷業の世界で効率化を実現しています。印刷業界では、常に全ての印刷機が稼働しているわけではありません。ラクスルは稼働していない印刷機、すなわち遊休資産を束ねて活用することで、コスト削減を実現し、新しいビジネスにしました。これはクラウドシステムの発想を印刷業に取り入れたと言い換えられるでしょう。このビジネスモデルにより、地方の印刷業も活性化しているそうです。鹿児島の小さな印刷会社だったプリントネットは、ラクスルとの業務提携後、2018年にJASDAQ上場を果たしました。
ITやネットでうまくいっているモデルを、リアルのBtoBの世界に転用する手法は、エムスリー、ラクスルをはじめ、今、数多く出てきているスタートアップも注目しているところです。キャディはハードウェアの金型作りの分野で、ラクスルと同じようなモデルを採用するスタートアップです。
キャディでは、3D CADデータをインターネット経由でアップロードするとすぐに見積もりが表示され、発注すると短納期で納品されるというサービスを、地方の工場を束ねることで実現しています。少し前には、中国・深センの企業が同様のサービスを提供して話題となり、日本のメーカーからも利用されていましたが、これが日本へ戻ってきたような形です。
こうした取り組みは、ほかのセクターでも実現できるはずだと私は考えます。BtoCでできていること、ネットやITの世界でうまくいっていることを、自分たちのBtoBビジネスでやればどうなるかを考えてみるとよいでしょう。