台湾芸術祭から垣間見える、台湾人のアイデンティティの変化伊祐嘎照「生命の痕」。遠方からやってきた客家人が土地に根付く歴史を表現する、大湖エリアの巨大作品 Photo by Hasegawa Koukou

台湾で最大規模の芸術祭、「ロマンチック台三線芸術祭(浪漫台三線藝術季)」が開催されている。来年1月の総統選を前に、蔡英文氏が客家文化に焦点を当てた芸術祭を開催する意図は何か。台湾の歴史をたどりながら芸術祭の概要を紹介する。(ダイヤモンド社編集委員/クリエイティブディレクター 長谷川幸光)

国を挙げた台湾の芸術祭
「ロマンチック台三線芸術祭」開催

 台湾で最大規模の芸術祭、「ロマンチック台三線芸術祭(浪漫台三線藝術季)」が、12月15日まで開催されている。

 行政院(台湾の行政機関)客家委員会が主催し、今回が第1回目の開催となる。台湾の民族のひとつ、「客家(ハッカ)人」の文化に焦点を当て、客家文化が点在する街道「ロマンチック台三線(たいさんせん)」を舞台に、国内外の50人以上の芸術家が作品展示やインスタレーションを行う。さらに、100以上の文化体験も提供する。

台湾芸術祭から垣間見える、台湾人のアイデンティティの変化桃園市と台中市を結ぶ「台三線」。かつては、台湾茶や火薬材料の輸送ラインとして重要な産業道路だった 画像提供:ロマンチック台三線芸術祭

 行政院主催の芸術祭においてなぜ、幾つもある民族のうち客家人の文化のみに焦点を当てたのか? 理由は後半に記すとして、まずは芸術祭の概要を紹介しよう。

 台湾の玄関口、桃園市。そこから台湾中部の台中市を結ぶ全長150kmの街道が「ロマンチック台三線」だ。台三線の山あいには、16の客家の集落が点在し、昔ながらの里山風景や伝統的な建築物が今も残る。この台三線を中心として、桃園市、新竹県、苗栗県、台中市、そして台北市の5つの県と市にまたがる10のエリアで、芸術作品を楽しむことができる。