■国際仲裁を申し立てられるリスク
「エネルギー憲章条約第10条」が保護する締約国の投資家の利益が侵害されているとして、多額の損害賠償を請求されるリスクがある。例えば、スペイン政府が2010年に遡及的制度変更をして、32件の仲裁を申し立てられ、5件敗訴し、総額740億円の損害賠償を負った。政府が仲裁で負ければ賠償金は税金から支出されるため、国民負担の増加につながる。

 ■個人投資家・年金への影響
 上場インフラファンド合計で5万人を超える個人投資家がいる。私募ファンドを通じて、また国内外の年金基金も再エネ投資している。幅広い影響が出るのではないか。

 ■再エネ事業者が支払ったお金の行方
 再エネ事業者は「転嫁措置なし」で約1兆円を負担することになる。ただ、制度前後で託送料金の原価総額は変わらず、あくまで分配の話。再エネ事業者が負担した分、確実に誰かの負担が減っており、1兆円はどこへいくのか。

 ■議論プロセスの正当性
 これだけ経済的インパクトが大きい、かつ再エネを導入するという国の政策に逆行する恐れのある制度が、経産省の一委員会で決まろうとしている。また、一部の委員が反対を表明しているが、ほとんど無視されている。

 これら一連の指摘に対し、経産省はどのように考えているのか。本誌の取材に対し、同省担当者は以下のように回答した。おそらくこの問題に関しての見解表明は、これが初めてだ。

 ●再エネ電源の増加で送配電設備の増強などに必要な費用は今後も拡大していく見込み。こうした環境変化に対応し、費用の増大を抑制しつつ再エネ拡大に必要な送配電設備の整備を確実に実施していく。そのため、系統利用者である発電側にも送配電費用の一部を負担してもらうべく、発電側基本料金を導入する。

 ●この制度は、送配電設備の費用に与える影響を踏まえ、発電設備の系統側への最大出力(kW)に応じて公平に負担を求めるもの。これにより、最大出力を下げつつ出力の平準化を図るなど、発電者が送配電設備を最大限効率的に利用しようとするインセンティブが生まれる。発電側に起因する送配電設備の費用の増大の抑制にもつながると期待される。

 ●この制度の導入により基本料金による回収割合が上昇すれば、費用回収の確実性が確保されるため、再エネ拡大などに必要な投資がしやすくなると期待される。