『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリとトランプ政権の舌戦から読み解く資本主義の未来です。著者は、寡占資本を支える今日の「テクノストラクチャー」(専門家・経営者集団)の大規模な解体こそが気候変動の加速と石油と金融の呪いに歯止めをかける唯一の方策だと指摘します。
ドナルド・トランプ米大統領のもとで財務長官を務めるスティーブン・ムニューシンは、スイス・ダボスで開催された今年の世界経済フォーラム年次総会において10代の気候変動問題活動家グレタ・トゥーンベリを皮肉交じりに批判し、リベラルな評論家たちを激怒させた。
化石燃料関連の投資からただちに撤退することを求めるトゥーンベリの呼び掛けに対し、ムニューシンは「君がわれわれにそれを説明できるようになるには」、まず大学に行って「経済学を勉強」すべきだと述べたのである。その2日前にはトランプ大統領が、気候科学者らを「過去の愚かな占い師たちの末裔(まつえい)」と呼んでいた。
気候変動、またそれを抑制するためにドラスティックな措置を求める活動家たちに対するトランプ政権の態度は、醜悪で下劣であり、間違っている。だが、トランプやムニューシンをはじめとする人々が見せる愚鈍さや有害性の背後には、冷たい論理と粗削りの正直さがある。彼らの政治姿勢は、現代資本主義に対する正真正銘の擁護なのである。
そして、ムニューシンのトゥーンベリに対する上から目線のアドバイスから判断するに、彼らは、気候科学とは違って、主流派の経済学が自分の仲間であることを理解している。
筆者もダボス会議でのムニューシン発言に感情を抑えきれず、「残念ながら、ムニューシンにも一理ある」とツイートした。「グレタが主流派の経済学を履修したら、何学期かにわたって、気候災害も経済危機もあり得ないような市場モデルを学ぶことになるだろう。経済政策も経済学も、改革すべき時期を迎えているのだ!」
同業のエコノミストの多くは、筆者のツイートが気に食わなかった。「どこの教養課程を見ているのか分からないが、自分が知っている経済学初級講座ではすべて市場の失敗を取り上げているし、気候変動はその代表例とされている」とコメントする人もいた。
なるほど、その通りだ。だが残念ながら、そこがポイントではない。経済学の講義における多くの実例や概念は、トゥーンベリの決意を明らかに強化するだろうし、ムニューシンやトランプといった人々に反対する強力な根拠を与えてくれるだろう。だがその一方で、トゥーンベリは、経済学と、それが仲間の学生たちに与える影響にいら立ちを感じ、結局のところは足を引っ張られてしまうだろう。