![ドル覇権を巡るトランプ大統領のトリレンマと中国のジレンマ](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/6/3/650/img_633de898b1d346e20caa07d8673c1eee29599.jpg)
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、米中対立です。高関税・ドル安誘導・ドル覇権維持というトリレンマ(不可能の三角形)に直面するトランプ政権と、脱ドル化を巡ってジレンマに陥る習政権。両者の相克の行き着く先とは?
ドナルド・トランプ氏のホワイトハウス復帰に伴う、中国にとっての最大の懸念事項は、中国からの輸入品に課すと公約していた高率の関税ではない。トランプ氏にとって関税が持つ意味は、中国の成長と発展を深刻に阻害する経済的な武器ではなく、政治的・象徴的な行動だということを中国指導部は見抜いている。
中国が直面する本当のジレンマは、主要な新興市場国で構成されるBRICSグループをブレトンウッズ的体制に変身させることにより、ドルを基軸とする国際金融システムから中国経済を切り離すかどうか、という問題だ。その答えは、関税やTikTok(ティックトック)の運命ではなく、米政権内の対中強硬派がトランプ大統領を、関税を超えた対立へと追い込み、金融制裁を含む対決に持ち込むかどうかにかかっている。
関税は中国抑え込みの手段として過大評価されている。特に大規模な減税や国内での急進的な規制緩和の約束と組み合わされた場合、その効果は限定的だ。結局のところ、これらの政策はいずれも米国の利益と株価を押し上げ、外国資本の流入を加速させる可能性が高い。連邦財政赤字は拡大するものの、投資家が米国債の利回り上昇が米国株価指数の上昇を相殺することはないと考える限り、ドルは引き続き強含みとなり、中国の輸出に対する関税の負の影響を和らげるだろう。その結果、国内の貯蓄と投資のギャップ――米国の対中および対欧州貿易赤字の根本原因――はさらに拡大することになる。
トランプ氏は、難しい「トリレンマ」(不可能の三角形)に直面している。いったい、高い関税とドル安、そしてドルのグローバル覇権の維持の3つを同時に成立させることは可能なのか。中国指導部は1985年のプラザ合意を丁寧に分析し、40年前にロナルド・レーガン大統領(当時)が日本に対して採った戦術をトランプ氏が中国に対して採用するだろうと予測している。