自由民主主義の欠陥修復のために政府は3つの機能を果たすべきとスペンス教授 Photo:REUTERS/AFLO

 18世紀イギリスの経済学者アダム・スミスは、近代経済学の創始者として昔から尊敬されている。スミスは名著『諸国民の富』『道徳感情論』の中で、市場経済の機能の重要な側面を切り分けている。だが、スミスが高い名声を得ることになった洞察は、かつて思われていたほど完全無欠なものではない。

 スミスによる洞察として最もよく知られているのは、適切に機能し、適切な規制を受ける市場においては、個人がそれぞれの利益にしたがって行動することが全体として優れた結果を生み出す、というものだ。この文脈における「優れた(good)」は、今日の経済学者が言う「パレート最適」を意味する。つまり、別の誰かの効用を犠牲にすることなしに、誰ひとりとして自らの効用を改善することができないような資源配分の状態である。

マイケル・スペンス(Michael Spence)
米国生まれの経済学者。2001年にジョージ・アカロフとジョセフ・スティグリッツとともに、情報の非対称性に関連する業績によってノーベル経済学賞を受賞。2010年9月よりニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授。スタンフォード大学フーバー研究所のシニアフェローも務める。

 スミスの命題には問題がある。なぜなら、重大な「市場の失敗」が存在しないという受け入れ難い想定に立脚しているからだ。外部性(市場価格に反映されない環境汚染などの影響)もなし、情報の格差や非対称性もなし、自分に有利になるように結果を歪めるだけの権力を持つ市場参加者もなし、というわけだ。さらにスミスの命題は、配分結果(パレート効率性においては考慮されない)に関してもまったく無視している。

 もう1つ、スミスの重要な洞察として、分業の拡大、つまり個々の労働者や企業が、生産全体のうち1つの孤立した分野に特化することにより、生産性の向上と所得の成長をもたらすことができるというものがある。これは実質的にグローバリゼーションの論理である。市場の拡大と統合により、企業や国は比較優位と規模の経済を活かすことができ、それによって全体的な効率と生産性を劇的に高めることができる、という考え方だ。

 だが、スミスはここでも、市場経済が富を創出する能力を、その富の配分を考慮することなく称賛してしまっている。実際には、大規模な市場で分業が進むと、潜在的に配分に大きな影響が生じ、一部の参加者が大きな損失を被る。こうした損失を補うのに十分なほど利得が大きいというのが決まり文句だが、そのことを実現する現実的な方法がない以上、信憑(しんぴょう)性に乏しい。