『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、昨年12月に相次いで亡くなった2人の大物政治家の相克から読み解く欧州分断の物語です。両者が描いたビジョンの対立は、欧州の長期的な衰退と深い因果関係があると指摘します。
欧州のあらゆる政治家の中で、自国のトップになっていないのに欧州に最大級の影響をもたらした人物と言えば、ジャック・ドロールとヴォルフガング・ショイブレの2人である。
良かれ悪しかれ、今ある欧州連合(EU)は、昨年12月に1日の差で相次いで亡くなったこの2人の間で形成された。実際には2人の在任時期は重なっていなかったが、欧州の未来を巡る両者の激しい衝突が歴史を作った。誰もがこの2人を重要人物と認める一方で、両者のビジョンの対立が現在のEUの停滞と深い因果関係を持っていることはあまり理解されていない。
さまざまな追悼記事から判断して、この2人は、その表面的な違いによって記憶されている。ドロールは、華やかなフランス人でローマ・カトリック信者。社会民主主義者として思い描いたケインズ主義的な欧州像は、英国のマーガレット・サッチャーにとっては悪夢だった。
一方のショイブレは、カルヴァン主義的な厳格な財政規律を重んじ、財政赤字に依存する南欧、そしてフランスの財務相たちを恐怖させた。両者とも傑出した欧州主義者、つまりは欧州懐疑主義者の敵として認知されているが、性急なEU中心主義者として描き出されるドロールとは極めて対照的に、ショイブレはドイツ連邦議会の権限をEU本部に移譲することには消極的だった。
どれも間違ってはいない。だが、こうした説明によって、私たちが両者の動機と言動について受ける印象は不完全であり、恐らくは誤解につながっている。