近年大きな労働問題になっているのが、パワハラなどのハラスメントだ。2019年5月、企業・職場でのパワハラ防止を義務づける「改正労働施策総合推進法」(いわゆる「パワハラ防止法」)が成立。それにともない、大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日からパワハラ防止のための措置が義務づけられる。企業のハラスメント問題を数多く手がけている労務問題のプロ弁護士・向井蘭氏の最新刊『管理職のためのハラスメント予防&対応ブック』から、企業のハラスメント対策のポイントを解説する。
☆過去の連載
第1回:いま、パワハラ対策が重要な理由
第2回:パワハラする人は出世しやすい?
第3回:「時代錯誤な上司」がするパワハラ
第4回:泣き寝入りしない、させない! セクハラから始まるパワハラ
第4回までの連載では、パワハラ行為者をタイプ別に捉えて、そのうちの6タイプの「特徴」と「対処法」をお伝えしました。
今回は、ハラスメント問題のなかでも対応が難しい、「偽パワハラ」問題についてです。
パワハラの訴えがあったものの、実は真っ赤なウソだった…。そのようなケースも実際にありますので、経営者やハラスメント対策の担当者は、慎重な対応をすべきでしょう。ここでは、実際にあった2つの例を紹介します。
上司を追い落とすために…
ある会社の社員が、上司から「お腹をグーで殴られた」と訴えたことがありました。
同僚がその場に同席していたと言うので、会社がその人にヒアリングをすると、「覚えてない」と言いました。
私は、「上司が部下のお腹を殴るというセンセーショナルな場面を覚えていないなんてことがあるだろうか」と不審に思いました。
次に殴ったという上司にヒアリングをすると、「そんなことは絶対ない」と言います。「親しみをこめて肩を軽く叩いたことはあるけれども」とのことでした。
そこで再度、同僚の人に聞くと、「嘘をついていた」と告白しました。社員から、「自分はグーでお腹を殴られたと言うから、お前は見なかったことにしてくれ」と事前に言われていたそうです。
気に入らない上司をパワハラで訴え、いなくなってほしいと思ったらしいです。
この偽パワハラを画策した社員には、虚偽申告を理由に退職勧奨し、辞めてもらいました。